本研究では、ナノ組織制御技術を用いて線材に人工ピンを導入したRE系コート超伝導線材と、超伝導線材の電流通電の方向に磁界を平行に加えることにより電流容量が大きく増加する縦磁界効果を用いて軽量でコンパクトな高性能直流電力輸送ケーブルの開発が目的である。今年度の実績は下記である。 1)縦磁界で有効な人工ピンの解明について、市販されている長尺線材の微細組織観察から、ピンの形状などを調査した。特に線材の作製速度を変化させると、製膜過程で導入される積層欠陥等が、縦磁界下での臨界電流密度向上に有効であることがわかった。また、一般的に磁界特性向上のために導入されるナノサイズの人工ピンは超伝導層へ歪を与え、この歪が電流の流れを変え、電流と磁界の平行度を乱す。従って歪を与えず、小さなピンの導入が有効であることが明らかになった。また、超伝導層の厚膜化が縦磁界下での臨界電流密度向上に有効であることも確認できた。 2)全長700 ㎜のケーブルが過冷却下での通電特性評価が行える測定容器を開発した。さらに全長700 ㎜で超伝導線材を8枚利用した単層の模擬電力輸送ケーブルを設計、作製し、過冷却容器での通電特性評価を行った。77 Kでは自己磁界下から3.1%の増加の2055 Aの電流容量が得られた。さらに過冷却下の67 Kでは自己磁界から4.2 %の増加である4103 Aが得られ、77 Kに比べて67 Kでの利用の方が、増加率が大きいことが確認された。この結果から、利用温度低下による線材の臨界電流密度の増加は、縦磁界を利用したケーブルのコンパクトで高性能化に直接影響を与えることが示された。また超伝導線材の縦磁界中の臨界電流密度の増加率がまだ十分でないので大幅な電流容量の増加にはなっていないが、67 Kでは0.25 Tまで縦磁界を加えても電流容量が増加することが明らかになった。
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