現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は、前年度に構築した時間分解分光及び顕微分光装置を用いて、超分子ポリマーや光メカニカル結晶などの分子集合体中の励起子拡散ダイナミクスの研究を遂行し、これらの研究成果を論文化することができたため、本研究がおおむね順調に進展していると考えている。具体的には、ジケトピロロピロールを発色団とする超分子ポリマーの系では、フェムト秒超短光パルスの照射によりコヒーレント振動が誘起されることを発見し、モノマー状態の時間分解測定や分子動力学シミュレーションの結果との比較から、当該振動モードが超分子構造に特異な分子間振動に由来することを明らかにした。さらに、一重項-一重項消滅過程を利用した励起子拡散能やコヒーレント振動の位相緩和時間、さらに、それらと分子配列との相関を調べることにより、励起子拡散と集合構造の相関に関する知見を得ることができた(N. Fukaya, S. Ogi, H. Sotome et al., J. Am. Chem. Soc. 2022, 144, 22479-22492)。特徴的なメゾスケール構造を有する発光性超分子ポリマーの励起子拡散ダイナミクスについても、発光機能との相関を示す明瞭な測定データが得られており、次年度以降に論文化する予定である。光・力学変換が可能な光メカニカル結晶にも研究を展開し、光照射により生成した励起子が起点となり、結晶中を伝播していく特異な光重合反応の進行を明らかにした(K. Morimoto, D. Kitagawa, H. Sotome et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2022, 61, e202212290)。一連の結果は、分子集合体に内在する、または動的に現れる不均一性が、光、励起子の伝播、さらには巨視的スケールの化学反応の伝播に重要な役割を果たしていることを明らかにできた。
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