研究実績の概要 |
誘電体キャビティミラーを用い、ジフェニルリン酸アジドのトルエン溶液を試料として、その振動強結合条件下における中赤外ポンププローブ実験を実施した。これまで、振動ポラリトンの超高速分光は金属錯体化合物でのみ行われており、本実験はより化学反応などで重要となる有機分子をターゲットとする最初の試みである。 キャビティ外の試料と比較して、緩和速度の増大と励起直後の時間帯におけるビート構造が観測された。振動ポラリトンのUPモードの緩和定数の増大は、分子振動がキャビティ光子と結合したことにより説明される。また、LPモードの遷移周波数は、結合していない分子のホットバンド遷移と周波数が重なり、両者の影響を分離することが難しいため詳細な議論ができなかったが、長時間経過後の緩和速度はUPモードとほぼ同じ緩和定数を示しており、UP,LP状態が短時間でキャビティと結合しないDark state(DS)にポピュレーション移動してその後に基底状態に緩和する、二段階緩和モデルと矛盾のない結果が得られた。今後、ラビ分裂が大きくLPとホットバンドを分離できる試料を用いた実験を行う。また、熱によるLPからDSへの励起が起きない極低温環境において振動ポラリトン状態の緩和ダイナミクス計測を行う予定である。 同じ試料を用いて、共同研究先のカリフォルニア大学サンディエゴ校のProf. Weiの研究室に博士学生を派遣し、二次元分光測定も行った。得られた結果は中赤外ポンププローブ実験と同じ傾向を示したが、ミラーの構造が異なったため緩和定数の違いが観測された。結果はポラリトンブリーチ、及びラビ分裂縮約という現象を考慮したモデル計算によって、説明ができることが示された。これとは独立に、重水とイオン液体を混ぜた試料で実験を行い、超強結合領域に相当するラビ分裂554cm-1を観測した。今後、この試料の超高速分光も実施する予定である。
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