研究課題/領域番号 |
21H01891
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
瀧上 隆智 九州大学, 基幹教育院, 教授 (40271100)
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研究分担者 |
濱田 勉 北陸先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 准教授 (40432140)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | リピッドソーティング / 脂質ベシクル / 臨界充填パラメーター / 出芽形成 / ドメイン形成 / 線張力 |
研究実績の概要 |
本研究では多成分脂質ベシクルを対象に、リピッドソーティング(分子の幾何学的形状と膜曲率との結合)が誘起する膜の不均一性とベシクル変形挙動との因果関係を明らかにすることを目的としている。ベシクル二分子膜での液体秩序(Lo)/液体無秩序(Ld)ドメインが共存する不均一な膜状態を対象に、ベシクルの様々な変形モード(楕円、出芽、孔、接着・融合)を、蛍光および共焦点顕微鏡観察および線張力定量、膜内での分子分布の変化の観点から研究を遂行した。 今年度は、臨界充填パラメーター(cpp)が1より小さな一本鎖脂質であるLysoPC(テトラデシルPC)および短鎖の二本鎖PC(DC6PC)を添加したベシクルの変形挙動解析を行った。その結果、LysoPC系ではLysoPCのLoおよびLd両相への分配により、Lo相の膜厚が減少し、Ld相の厚みは増加することで両相間の線張力が低下すること、およびこの効果により出芽形成よりも二分子膜内でのLo/Ld相分離構造の形成が促進されることが判明した。 さらに、DC6PC系では曲率の大きな構造が二分子膜内に誘起され、DC6PCのモル分率が低い(5 mol%以下)領域では孔形成が、比較的高い領域では出芽形成が誘起されることを見出した。この挙動はcppがほぼ1/3であるDC6PC分子が、二分子膜内の正の曲率を有する内・外膜への優先的な配置により引き起こされる ことにより合理的に説明される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分子の臨界充填パラメーターの制御によるベシクルの出芽や孔形成等の変形挙動の誘起に成功し、その要因が形状の異なる脂質分子の二分子膜内での偏った分布の効果(リピッドソーティング)として合理的に解釈できた。 一方、FRET蛍光消光法および蛍光退色回復法については、世界的な半導体不足問題のため蛍光分光装置の導入が遅延したため十分には行えなかったが、FRET法により、顕微鏡観察下では均一に見える状態でも、微小なドメインが存在することを検出することに成功し、着実に進みつつある。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、飽和脂質/不飽和脂質/コレステロールからなる基準系ベシクルに、cppが1より大きな二本鎖PC(例えばDPPE等)や剛直なヘリックスペプチドを添加した4成分系ベシクルを対象に研究を展開する。球状ベシクルを基準に楕円変形、出芽(outer budding)変形、孔(hole)形成、接着(adhesion)・融合(fusion)、破裂(rupture)等の変形モードを対象とし、以下の項目について検討を行う。 1.ベシクル変形と線張力および曲げ弾性の関係 均一なLd相のベシクルに対して温度降下によりLo/Ld共存状態へ転移させ、ドメイン構造を実現させる。Loドメインサイズ・面積分率の異なるベシクルの変形過程を位相差および蛍光顕微鏡(FM)により実時間記録する。Lo(あるいはLd)ドメインの輪郭揺らぎのフーリエ解析から線張力を、二分子膜全体の揺らぎから曲げ弾性率を求め、脂質分子のcppに依存した変形挙動に与える線張力と曲げ弾性のバランスについて検討する。 2.ベシクル変形と脂質分子やペプチドの膜内分布の関係 二分子膜の曲率変化は添加される脂質分子やペプチドの分子形状とカップリングして膜内での脂質分子の再配置(リピッドソーティング)を誘起する。蛍光標識した脂質分子やペプチドの二分子膜内分布を蛍光顕微鏡および共焦点顕微鏡観察から判断し、ベシクル内膜・外膜での分子の局在化をFRET蛍光消光のベシクルサイズ(曲率)依存性や小角X線散乱(SAXS)測定から決定される電子密度プロファイルより評価し、リピッドソーティングと変形モードの相関を検討する。
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