研究課題/領域番号 |
21H01896
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
二本柳 聡史 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 専任研究員 (30443972)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 界面 / 非線形分光 / 超高速ダイナミクス / 電気化学 / 分子科学 |
研究実績の概要 |
2年目である22年度はより良い研究対象の探索に力点を置き研究を進めた。まず最も基本的な電解液の溶媒である水の定常測定に取り組んだ。水は水溶液系電気化学の溶媒であるばかりでなく水電解の基質でもあり電気化学分野において非常に重要な液体分子である。また、酸化物/水界面や水表面などの非電極界面においてSFGで活発に研究されていることから電極界面においても(電位によって)SFG活性があるものと期待できる。しかしながら、赤外領域の吸光係数が大きいため本研究で用いる外部反射配置測定の場合には透過率の大幅な減少があり測定が困難になることが予想された。この問題を回避するために重水で希釈した同位体希釈水(H2O:HOD:D2O=1:8:16)を用いた。これによりOH伸縮の吸収を20%に抑制することができ電気化学条件においても測定が可能となった。実際に電解質としてNa2SO4を含むHOD水溶液のHD-VSFG測定を行い、そのχ(2)スペクトルの取得に一部成功している。未だプレリミナリーではあるが、負電位において水素が電極に向いて配向したOHが観測される一方で、正電位ではOHがほとんど観測されないという非常に興味深い結果を得ている。この結果については学会発表している。一方、この系はHD-VSFG測定と電気化学測定を同時に成功させるのが難しい系であることが実験を進める中で分かってきた。現在、電気化学の確率がよくなる方法を模索している。また、電極界面の時間分解の前段階としてシリカ/水界面のフェムト時間分解スペクトル測定を行い、測定が可能であることを確認した。その他、芝浦工大との共同研究でSARS-CoV-2 Spike (N501Y) RBDの界面吸着に関する研究、北海道大学との共同研究で電極表面に構築した生体分子単分子層の構造に関する研究、東京大学との共同研究で高分子界面の研究を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
電極界面の水の定常χ(2)スペクトルが得られたことは望外に大きな成果である。一方で、水の定常測定に時間を要したため時間分解測定についてはシリカ/水界面の試験測定にとどまり、電極界面の時間分解測定に到達していない。定常状態測定の大きな成果と時間分解測定の遅延を総合しておおむね順調とした。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である2023年度は本研究課題の骨子である電極界面時間分解測定の実現に向けて全力を尽くす。技術的にはシリカ/水界面の試験測定からシリカ由来と思われるコヒーレントアーティファクトが出やすいこともわかってきている。そのため電気化学系で時間分解測定を行うときには窓材であるCaF2や電極由来のコヒーレントアーティファクトを抑制することが実験の肝になると予想される。そのために観測可能な範囲で励起光強度を弱くすることが求められる。フェムト秒パルスを使うことが難しい場合はファブリーペロー干渉計を使って励起赤外光を狭帯域化しパルスエネルギーを下げることでコヒーレントアーティファクトの発生を抑制する。具体的な系としては以前に定常スペクトルを観測し、すでに論文発表している白金電極/アセトニトリル溶液界面を対象として振動ダイナミクス測定の実験を行う。電極電位はアセトニトリルのCHバンドが最も強くなる1.6 V vs. Ag/Ag+に保持する。定電位においてアセトニトリルのCH3バンドをフェムト秒赤外ポンプ光によって振動励起し、CH伸縮領域のフェムト秒赤外光とピコ秒可視光によって生じる和周波光をヘテロダイン検出することでCHバンドの時間分解その場HD-VSFG測定を実現する。和周波光に対する励起光の遅延時間の関数として時間分解スペクトルを測定し、CHバンドの振動励起状態の緩和過程を追跡する。ついでアセトニトリルが分解吸着して生じるCN-のバンドが観測されるCN伸縮領域においてCN-バンドの赤外励起/HD-VSFGプローブ測定を行う。COなど吸着種の振動寿命は電位に依存することが90年代の粗い実験によって提案されているがこのような挙動が本当かどうか時間分解HD-VSFGの精密な測定によって明らかにする。これらの実験により時間分解その場HD-VSFG測定の実現性と有効性を示す。
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