研究課題
2枚の光反射ミラーが向かい合った光共振器の中では、定在波として存在可能な光が限定され、共振器モードとして規定される。この光共振器に分子を導入すると、共分子振動と共振器モードが光を介して可逆にエネルギーを交換するようになる。この可逆なエネルギー交換が、緩和を含む散逸過程や光共振器内での光の損失よりも速くなると、振動強結合と呼ばれる状態になる。振動強結合では、分子振動と光の量子的な重ね合わせ状態、ポラリトンが形成される。このポラリトンの形成に伴い、振動基底状態のエネルギー準位が変化することが理論的にも予測されている。実際、振動強結合の状態では分子の反応性が変化することが観測されており、光共振器の中では分子の物性が変化することが明らかとなっている。本研究では、有機分子を振動強結合の状態にすることでイオン伝導にかかる物性の制御を試みた。具体的には、カルボニル基を有する分子を光共振器の中に導入し、カルボニル伸縮振動を強結合の状態にした。この状態では、カルボニル基のプロトン解離平衡が変化していることが示唆された。光反射ミラーの距離を変更し、共振器モードのエネルギー準位を変化させることで振動強結合ではない状態にすると、解離平衡は通常の状態に戻った。この結果は、振動強結合によってプロトン解離の平衡が変化していることが示唆している。カルボニル基のプロトン解離平衡の変化は伝導度にも影響することが予測される。
2: おおむね順調に進展している
光共振器を作成し、ターゲットとする分子で振動強結合の状態を作ることが出来た。また、振動強結合の状態では、プロトンの解離能が変化していることが示唆された。
イオン解離能の変化が確認できたため、今後は伝導度を含めた各種物性の変化を確認する。
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