研究課題/領域番号 |
21H01901
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
井口 弘章 東北大学, 理学研究科, 助教 (30709100)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 多孔性配位高分子 / 分子性導体 / 一次元電子系 / 電気伝導 / ホスト-ゲスト相互作用 / ナフタレンジイミド |
研究実績の概要 |
本研究では、有機結晶における新しい電子状態開拓法として分子の吸脱着を適用することを目指して、既存の分子性導体と多孔性配位高分子(MOF)を融合し、分子の吸脱着に応答して電子状態が変化する多孔性分子導体(PMC)の開発を行った。本年度は主として【課題1】骨格構造の次元性制御によるPMCの柔軟性の制御、に重点的に取り組んだ。 ナフタレンジイミド (NDI)、ペリレンジイミド (PDI)、インドロカルバゾール (ICZ) を骨格とした配位子の合成及びこれらの骨格を有する電荷移動錯体の合成を行い、NDIやPDIについては複数種類の配位子の合成に成功した。NDI骨格を有する電荷移動錯体についても5種類以上の結晶の合成に成功し、電荷とNDI骨格の炭素-炭素結合距離の相関関係を明らかにした。ICZ骨格を有する電荷移動錯体では、対アニオンの大きさが大きくなるにつれて、π積層様式が一次元から二次元へと変化することがわかり、今後の分子設計に大きな指針を得た。 NDI誘導体を配位子に用いたPMCの合成では、ゼロ次元骨格に相当する六角形型マクロサイクル分子が積み重なった新しいPMCの合成に成功した。この化合物は既存のNDI誘導体の中でも高い電気伝導性を示した。活性化の際に結晶の劣化が起こるためガスの吸着は観測できなかったが、導電性の多孔質分子結晶をマクロサイクルの自己組織化によって形成できることを世界で初めて示すことができた。他にも二次元、三次元骨格を有する複数のPMCの合成に成功し、X線回折測定による結晶構造解析や吸収スペクトル等の基礎的なキャラクタリゼーションを行い、一部は電気伝導度測定まで完了した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ほぼ計画した通り、ナフタレンジイミド (NDI)、ペリレンジイミド (PDI)、インドロカルバゾール (ICZ) を骨格とした配位子の合成に成功し、これらの骨格を有する電荷移動錯体も複数得ることができた。今回合成したNDI骨格を有する5種類以上の電荷移動錯体と既知の電荷移動錯体の電荷と結晶構造の関係をを詳細に調査し、電荷とNDI骨格の炭素-炭素結合距離の間に相関関係があることを明らかにした。また、ICZ骨格を有する電荷移動錯体についても過塩素酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオンを対アニオンに有する結晶を得ることができ、大きなヘキサフルオロリン酸イオンを有するものでは、π積層様式が珍しいブリックワーク型となり、二次元電子系が期待できることを明らかにした。 ピラゾール基を導入したNDI配位子を用いてNiイオン存在下で電解還元を行ったところ、六角形型マクロサイクル分子がNDI骨格部位で積み重なった新しいPMCの合成に成功した。この化合物はペレット試料においても室温で0.1mS/cm程度の高い電気伝導性を示し、これは既存のNDI誘導体の中でも最も高い部類に属していた。これにより、導電性の多孔質分子結晶をマクロサイクルの自己組織化によって形成できることを世界で初めて示すことができた。他にも二次元、三次元骨格を有する複数のPMCの合成に成功し、X線回折測定による結晶構造解析や吸収スペクトル等の基礎的なキャラクタリゼーションを行い、一部は電気伝導度測定まで完了した。このように構造の次元性の高いPMCを次年度以降に予定している吸着分子による電子状態制御に用いる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
多様な配位子を用いたPMCの合成を進めるため、π共役骨格のバリエーションを増やしていきたい。特に、特異な酸化還元特性をもつπ共役分子を合成している有機化学者との共同研究は積極的に進める予定である。 また、二次元・三次元の高い次元性を有するPMCが合成できてきたので、これらのナノ細孔中の溶媒分子を脱離させ、TTF,TCNQ等の酸化還元性を有する分子を代わりに導入し、骨格のπ共役積層カラムとの間で電荷移動を起こす予定である。このときの導入量や反応時間等によって化学ドーピング量が変化すると期待され、分子性導体に代表される導電性有機結晶として初となるバンドフィリング制御を達成したい。 なお、三次元骨格を構築する方策としては、現在検討しているピラジン、dabco等の架橋配位子を用いるだけでなく、配位性置換基としてピラゾールやトリアゾールを導入することで、金属イオンーハライドからなるジグザグMX形状の柱を構築することも検討する。この手法であれば、金属イオンやハライドの種類を様々に変えることで、π共役分子間距離の制御による電子状態制御にも繋がると期待される。
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