研究実績の概要 |
今年度はペンタセン(Pc)骨格の6位と13位に異なるアルキル鎖長の3,4,5-トリアルコキシフェニルエチニル基(OCnH2n+1; n = 6, 12, 16)を持つPc誘導体(PcCn)を新たに合成し、自己組織的な分子集合体の構築 [(PcC6)m] を行った。また、分光特性および電子物性に対する鎖長効果を検討した。 分子集合体の作製はPcCnのシクロヘキサン溶液(良溶媒)をイソプロピルアルコール(貧溶媒)に注入することでPcC6とPcC12はそれぞれ球状と繊維状のナノ集合体を生成した。一方、PcC16は溶解度が低いため集合体作製ができなかった。粉末X線回折(PXRD)の結果、PcC12のナノファイバー[(PcC12)m]はラメラ構造であり、Pc骨格が効果的に重なっているため、シクロヘキサン中のPcC12単量体と比較して吸収スペクトルが著しくブロードニングし、赤色シフトしていることがわかった。一方、PcC6のナノ粒子[(PcC6)m]の基本的な集合パターンは、2次元構造であることが特徴的であった。このナノ粒子ではPcの中心間距離が3.35 Åと短いが、吸収スペクトルから判断すると、(PcC6)mに関与するPcは効果的に相互作用していないと予想できる。さらに、興味深いことに、フェムト秒過渡吸収分光法では、球状集合体の(PcC6)mは一重項励起状態の失活が起こりやすいのに対し、繊維状集合体の(PcC12)mは超高速の分子間一重項分裂を示すことが示された。また、(PcC12)mのナノファイバーとイオンゲルをそれぞれ活性層とゲート材料として作製した電界効果トランジスタは、高いキャリア移動度でp型の挙動を示した。本研究により、Pcの発色団における側鎖の長さを適切に設計することで、SF及びキャリア移動特性の発現に有利な分子集合体を構築できることが示された。
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