研究課題/領域番号 |
21H01910
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
白幡 直人 国立研究開発法人物質・材料研究機構, ナノアーキテクトニクス材料研究センター, グループリーダー (80421428)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | シリコン量子ドット / III-V族半導体量子ドット / ダブルペロブスカイト半導体 / ハロゲン化錫ペロブスカイト半導体 / 発光ダイオード / エレクトロルミネッセンス / フォトダイオード / リガンド交換 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、コロイダル蛍光半導体量子ドット(QD)における問題「毒性と性能」のトレードオフを解決し、当該ドットを活性層とする波長可変発光ダイオード(LED)を創製することを目標とする。この目標を達成するために、本年度は、Si、InP、ダブルペロブスカイト構造を有する半導体量子ドットを活性層に有するデバイス素子を作製した。SiQDにおいては、昨年度開発した合成手法を可視蛍光体の調製に適用し、蛍光量子収率(PLQY)=33%の赤色蛍光体を合成した。これを活性層にして電流注入型の縦型素子を作製した。一定時間電圧を印加した後に、デバイス評価を行うとELパフォーマンスが格別に増強され、従来の外部量子収率(EQE)6.4%を格別に上回る12.2%を達成、Si-QLEDで初めて二桁のEQEを実現した。この手法をポストアニーリングプロセスと名付けた。EQEの増強は活性層を構成するQDsの粒子間距離が1.54nmから0.95nmに収縮したことによると結論付けた。②ダブルペロブスカイト構造として、最近合成法が開発されたCs2Ag(Na)InCl6へ、Biイオンをドープする方法を開発した。PLQYは2%ドーピングにより最大値33.2%を得た。これはIn空孔がBiイオンによって補完されるためと結論付けた。③前年度に開発した新しいIII-V族系ナノ構造「コヒーレントInP/ZnSコアシェルQD」を活性層にもつQLEDを作製したが、良好なEL特性は得られなかった。これは、コアとシェル両方にキャリアが存在できリークするためと考えられることが、InP系では初めてとなる光起電力素子を作製し、デバイス評価することで分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、優れた蛍光特性(PL-FWHM<40nm、PLQY>80%、PL時定数<100nsec)を示す環境毒性のないQDを合成し、それらを発光層に具備する発光ダイオード(QLED)のプロトタイプを作製、そのエレクトロルミネッセンス(EL)特性から「外部電極からのキャリア注入に最適なQD構造」を明らかにし合成系へフィードバック、調製条件を最適化することで、環境対応型発光素子の活性層に資するQDを開発する。この目的を達成するために、本年度は前年度に合成に成功したQDについてはQLEDデバイスを作製した。Si-QLEDでは従来のEL-EQEの最高値である6.4%を上回る12%と、Si-QLEDとしては初めての二桁のEQEを達成したことは特筆に値する。また、InP系では、ZnSシェルとのコヒーレント接合ににより70%を超えるPLQYを達成したので、これを活性層に具備するQLEDを作製したが良好なEL特性は得られなかった。この研究によりPLQYは高いEL-EQEを得るための一つの指標ではあるが、成膜した時のキャリアの漏れを制御する必要があることが分かった。一方で、このコヒーレントQDはLEDの活性層には不適であるが、フォトディテクターの活性層には好適であることが鋭意研究を進める過程で明らかとなり、この発見はIII-V族系QDの新しい研究分野開拓につながる可能性を秘めている。また、ダブルペロブスカイトQDの合成開発においては、三価のカチオン欠損を不純物ドーピングにより補完し蛍光量子収率が大幅に向上できることが分かった。これら複数の特筆すべき成果が得られたことから、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、前年度に引き続き優れたフォトルミネッセンス(PL)特性を有するナノ粒子の合成を行う。特にこれまで手を付けてこなかったIII-V族系の一つInSb、及び前々年度にPLQY増大が見受けられたハライドスズペロブスカイトのコロイダルQDの合成開発を進める。特に注目している点は、他グループに比べて我々のグループで特異的に高いPLQYが得られているCsSnI3コロイダル量子ドットに関し、高いPLQYが得られるメカニズムをプレカーサーケミストリーの立場から明らかにする。当該のメカニズム解明は、非鉛系ハロゲン化金属ペロブスカイトQDにおいて高いPLQYを得るための一般性解明にもつながると期待している。これら合成研究と並行して、良好なPLQYを得たダブルペロブスカイト蛍光体については、マルチレイヤー型LEDデバイスの活性層への組み込みを行い、デバイス駆動させて得られるEL特性を評価する。PL特性との差違を含めた評価結果を合成系へフィードバックする。合成からデバイス作製まで一連の研究を進めることで、研究目標に掲げた環境対応型発光素子を創製する。
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