研究実績の概要 |
当研究チームは、安定的にはp型しか存在しなかったグラフェンに、光塩基発生剤(PBG)である2-(9-オキサンテン-2-イル)プロピオン酸1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デシクロ-5-エンを用いることでn型ドーピングされたグラフェンが、紫外線下で2ヶ月以上安定に維持する技術を開発しました。この技術は、pn接合を利用したグラフェン単体の透明温度センサー等の製造に応用できます。しかしながら、PBGはその分子の小ささから、薄膜作製に適したスピンコーティングによってグラフェン表面に均一に分散させることが難しく、乾燥後にPBGが凝集するという課題が生じました。これはn型ドーピングの妨げにはなりませんが、周囲の温度や湿度によってはPBGの結晶化を引き起こし、膜の均一性や透明性に影響を与えます。この課題に対処するため、今年度はポリエチレンオキシド(PEO)をPBGに組み込むシステムを導入しました。PBGをPEOとハイブリッド化することで、グラフェン表面でのPBGの結晶化が効果的に抑制され、反応性と透過率が向上しました。さらに、PEOマトリックス内のPBG濃度を変化させることで、グラフェンがp型からn型にドーピングされるまでの時間を厳密に制御できることがわかりました。これを利用することで、グラフェンのドーピングメカニズムが解明され、グラフェンベースデバイスの開発に資すると期待されます。また、このグラフェンの熱電特性が100日以上安定していることも確認できた。これらの成果により、n型ドーピングできるグラフェンの、フレキシブルエレクトロニクスや各種センサー等への応用可能性を拡大できたとともに、それらの製造手法を確立するための有益な技術的情報を得ることができた。
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