研究課題/領域番号 |
21H01914
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
久新 荘一郎 群馬大学, 大学院理工学府, 教授 (40195392)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ケイ素-ケイ素π単結合 / 結合長変化 |
研究実績の概要 |
ケイ素-ケイ素π単結合および関連する14族元素間のπ単結合をもつ化合物の結合長変化について、今年度は以下の研究を行った。 まず、ヘキサ-tert-ブチルビシクロ[1.1.0]テトラゲルマンのπ単結合長が還元によってどのように変化するかを調べた。この化合物を18-クラウン-6存在下でカリウムで一電子および二電子還元すると、それぞれラジカルアニオンおよびジアニオンが得られた。X線結晶構造解析を行ったところ、ゲルマニウム-ゲルマニウムπ単結合長は中性分子では3.121~3.127Åであるのに対し、ラジカルアニオンでは3.519~3.529Åに伸長し、ジアニオンではさらに3.716Åに伸長している。また、橋頭位のゲルマニウム原子の構造は中性分子では平面構造からわずかにピラミッド化しているが、ラジカルアニオンでは39.92~40.70°、ジアニオンでは49.94°傾いており、ピラミッド化が大きくなる。これらの結果は還元によってπ*軌道に電子が入るため、π単結合の結合次数が減少するためと考えられる。 次に、1,3位に2個のフェニル基をもつビシクロ[1.1.0]テトラシランのフェニル基の回転によるケイ素-ケイ素π単結合長の変化を調べた。温度可変1H NMRでは、-80 ℃でもフェニル基は自由回転しており、回転のエネルギー障壁が小さいことがわかった。理論計算では、フェニル基の回転角が0°(Si4平面と共平面)、60°、90°のときにエネルギーは極小になり、そのときのケイ素-ケイ素π単結合長はそれぞれ2.80Å、2.60Å、2.44Åになり、π単結合異性体、中結合異性体、短結合異性体の特徴を示す。この結果はフェニル基の回転によってπ単結合長が変化することを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
π単結合は二重結合と異なり、σ結合が存在しないことから、その結合長は比較的フレキシブルに変化し得ると予想されたが、本研究の結果は一電子および二電子還元によって、また橋頭位のフェニル基の回転によって、ケイ素-ケイ素π結合長およびゲルマニウム-ゲルマニウムπ単結合長が変化し、それに伴って橋頭位のケイ素原子やゲルマニウム原子の構造が変化することが明らかになった。この結果はπ結合の結合長はσ結合がなければ本来、容易に変化し得るものであるという新しい概念を与えるもので、今後の研究の可能性を広げるものである。そのため、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
上記の研究と並行して、ビシクロ[1.1.0]ブタンの14族元素類縁体としてゲルマニウム原子で架橋されたケイ素-ケイ素π単結合化合物およびケイ素原子で架橋されたゲルマニウム-ゲルマニウムπ単結合化合物の合成も進めている。これらの化合物が合成できたら、X線結晶構造解析でπ単結合長を決定し、14族原子の違いによるπ単結合長の変化を調べる。さらに理論計算による解析を行い、電子状態がどのように変化するかを調べる。さらに紫外可視吸収スペクトルや温度可変NMRスペクトルの測定によって、π単結合の電子的および構造的な特徴を解明する予定である。
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