研究実績の概要 |
昨年の実績報告書でビシクロ[1.1.0]テトラゲルマンと末端アルキンの反応では、ゲルマニウム-ゲルマニウムπ単結合が開裂してアルキニル基と水素原子がシス付加することを報告した。今年度はこの反応をビシクロ[1.1.0]テトラシランを用いて行った。末端アルキンとしてフェニルアセチレンやp-トリルアセチレンを用いた場合はシス付加が起こるが、トリメチルシリルアセチレンを用いると、トランス付加が起こることがわかった。 なぜ、ビシクロ[1.1.0]テトラシランとトリメチルシリルアセチレンの組み合わせのときだけトランス付加が起こるのかを明らかにするために、ビシクロ[1.1.0]テトラゲルマンとビシクロ[1.1.0]テトラシランの電子状態について、B3PW91/6-31+G(d,p)レベルで理論計算を行った。ビシクロ[1.1.0]テトラゲルマンでは開殻一重項状態の寄与が大きな折れ曲がり構造が最安定であることがわかった。一方、ビシクロ[1.1.0]テトラシランでは閉殻一重項状態の寄与が大きな平面構造が最安定であることがわかった。これらの構造はX線結晶構造解析で求めた構造と一致している。 以上の理論計算の結果からシス付加、トランス付加の結果は次のように説明される。ビシクロ[1.1.0]テトラゲルマンは開殻一重項状態のビラジカル性をもち、末端アルキンとの反応はラジカル機構で進む。末端アルキンが付加するときは、シス付加が有利な立体構造で進行するため、シス付加体が生成する。ビシクロ[1.1.0]テトラシランの反応では、フェニルアセチレンやp-トリルアセチレンのようなラジカル中間体を安定化する末端アルキンを用いたときは、ラジカル機構でシス付加が優先的に起こるが、トリメチルシリルアセチレンのようなラジカル中間体の安定化が小さい場合は、反応はイオン機構で進行し、トランス付加が起こると考えられる。
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