研究課題/領域番号 |
21H01916
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
深澤 愛子 京都大学, 高等研究院, 教授 (70432234)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ジチエノペンタレン / ペンタフルバレン / 多段階酸化還元系 / 電子受容性 / アザフルバレン |
研究実績の概要 |
2022年度は,過年度に得られた成果を基盤として,非ベンゼン系共役電子系における分子間相互作用の解明と,未踏物性・機能の開拓に取り組んだ.具体的な成果は以下の2点に集約される.
1)非ベンゼン系共役電子系の分子間相互作用の解明に関する研究:過年度までの研究により,芳香環縮環部位をもつジチエノペンタレンやジチエノジアザペンタレンは,かさ高い置換基をもたない場合でも面心積層構造ではなく,π共役骨格どうしが横にずれた積層構造を形成しやすいことが明らかとなった.この主な要因が交換反発力による不安定化であることに着目し,この克服のために分散力を活用することを考えた.具体的には,チオフェン縮環ペンタレン (DTP) の周辺にπ共役系をさらに拡張した誘導体を設計および合成し,これらがジチエノペンタレンよりも近接した積層構造や,より狭い面間距離をもつことを明らかにした.また,量子化学計算により,これらが積層方向に沿って大きな移動積分をもち,有機半導体としての潜在性をもつことを見出した.
2)π 拡張型ペンタフルバレンの化学の開拓:過年度に合成したペンタフルバレンオリゴマーがC60の一次元部分構造をもつことに注目し,電子構造や光学特性の解明に取り組んだ.電気化学測定により,これらの分子が電子求引基をもたないにもかかわらず比較的低い LUMO をもつことに加え,多電子還元に対して高い安定性をもつことを明らかにし,新たなタイプの電子受容性π電子系としての潜在性を示した. また,ビインデニリデン骨格をもつ上述のペンタフルバレンオリゴマーよりも平面性の高い骨格を指向した骨格として,C=C結合の一部を C=N 結合に置き換えたアザフルバレンを設計し,その合成法を確立した.アザフルバレンは高い平面性をもつことに加え,電子受容性のC=N結合に起因してより高い電子受容性をもつことを示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請当初に,基礎科学と材料科学の両面にブレイクスルーをもたらす新しい光・電子機能性有機材料を生み出すために,特異な電子構造と安定性を兼ね備えた非ベンゼン系共役電子系および分子集合体の創成と機能開拓を目標に掲げた.そして,これを実現するために,(1)「効率的合成法の開発」と「弱い芳香環の縮環による安定化」を基盤とした新奇骨格創製 (2)めざす物性・機能からバックキャストした独自の分子設計を相補的な2本柱として計画した.今年度までに達成した,チオフェン縮環ジアザペンタレンおよびパイ拡張型ジチエノペンタレンの創製,ペンタフルバレンを基本骨格とする1次元共役オリゴマーの創製および物性解明は,上記の2本柱のいずれにおいても端緒となる成果であると位置づけられ,本研究はおおむね順調に進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
過年度までの研究成果を基盤として,以下の研究に取り組む. 1)非ベンゼン系共役電子系の分子間相互作用の解明と物性探究:初年度に得られた化合物群について,分子配列様式や分子間距離の違いが固体状態での物性(光吸収特性,半導体特性,一重項分裂の効率)に及ぼす効果を明らかにすると共に,研究対象を4nπ電子系以外の非ベンゼン系共役電子系にも拡げる. 2)π拡張型ペンタフルバレンの化学の開拓:優れた電子輸送性や熱電特性の実現を目指し,高分子量の共役ポリマーの合成に引き続き取り組む.また,縮環部位の構造修飾により,狭バンドギャップかつ空気酸化耐性の強い共役ポリマーを合成し,非ドープ状態でも金属的挙動を発現する系を探索する. 3)強相関電子系への展開:上記研究項目で過年度までに得られた電荷中性化合物をもとに,化学ドープ状態での構造解析と物性評価に引き続き取り組む.多電子還元の観測には既に成功しているため,物性評価に適した良質な結晶試料を得るためにアルカリ金属の種類,オリゴマーの鎖長,溶媒の種類を含む結晶化条件を徹底的に精査する.
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