研究課題/領域番号 |
21H01917
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
齊藤 尚平 京都大学, 理学研究科, 准教授 (30580071)
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研究分担者 |
佐藤 良勝 名古屋大学, トランスフォーマティブ生命分子研究所, 特任准教授 (30414014)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 蛍光フォースプローブ / 高分子レオロジー / ナノ応力集中 / 蛍光粘度プローブ / ネマチック液晶 / 蛍光レシオメトリック解析 / 蛍光イメージング / FLAP |
研究実績の概要 |
亀裂などの破壊が起こる前に、高分子材料の中でどのくらいの比率の分子鎖がピンと張られているかを知る上で最適な、新しいタイプの蛍光フォースプローブを開発した。一般に高分子材料が変形して特定の分子鎖に無理な力がかかると、ついには化学結合が切れてしまい、材料の破壊が進む。しかし、そうなる前のタイミングでは、およそ100 pN の力が分子鎖にかかってピンと張られる。独自に開拓した羽ばたく蛍光分子群FLAPはこの領域の力に可逆応答する蛍光フォースプローブである。すなわち、FLAP はV 字型構造が安定で青色蛍光を示すが、共有結合が切れない程度の微弱な張力がかかっている間だけ、基底状態で強制的に平面化され、緑色蛍光を発する。微量のFLAPを分子鎖に導入した高分子材料で一軸延伸のサイクル試験をしたところ、蛍光スペクトル形状が可逆変化し、蛍光レシオメトリック解析により分子鎖に伝わる力の偏り(ナノ応力集中)に関する新たな高分子レオロジーの知見が得られた。また、FLAPフォースプローブを、溶媒が含まれる高分子ゲルにも適用できるよう改良した。その結果、溶媒を含むポリウレタンゲルを1 MPa未満の応力で圧縮したときに生じる、高分子鎖の張力分布を可逆的かつリアルタイムに動画撮影することに成功した。さらに、FLAPを導入したPEG高分子の溶液を、急縮小マイクロ流路に流したところ、高分子鎖にかかる伸長応力に応答して、流速に応じた蛍光スペクトル変化が観察された。 また、FLAPは、1から100 cPという低閾値の粘度範囲において、動く観察対象の局所における粘度分布を解明できる。今回、ネマチック液晶である5CBが等方相へ熱相転移する際の微弱な粘度変化をFLAPの蛍光レシオ解析により捉えることができた。また、共同研究により、FLAP自体が溶液から固体へと乾固する凝集過程を蛍光スペクトルイメージングにより追跡した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在、より低い粘度で、より低い流速であっても流体の伸長応力イメージングができるようにFLAPフォースプローブの分子構造を改良している。実際に、FLAPの電子構造と励起状態のエネルギープロフィールを考慮しつつ置換基修飾を施すことにより、光励起だけでは応答せずに力がかかったときにだけ応答する蛍光フォースプローブの開発に成功している。 また偶然にも、FLAPを導入した高分子の延伸誘起結晶化に伴って蛍光色が鮮やかに変化するポリウレタンを発見している。引張試験では、分子鎖の伸長と、それに続く結晶化の2段階の蛍光色変化が確認できた。力に応答しない比較化合物でも、高分子への組み込み濃度が高い場合には延伸誘起結晶化に伴う蛍光変化が観測され、FLAPを導入していない場合には同じタイミングで白濁が観測された。このことから、2段階目の蛍光変化は延伸誘起結晶化に付随する光の散乱が起こり、蛍光の自己吸収が顕著になって蛍光スペクトルの短波長側が削れることが原因であると明らかになった。本現象は、青と緑の蛍光レシオ解析では分子鎖の伸長を追跡でき、緑と黄色の蛍光レシオ解析では延伸誘起結晶化をイメージングできる点で興味深い。
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今後の研究の推進方策 |
今後、FLAPフォースプローブに水溶性を付与するための置換基を施す予定であり、そのための合成スキームは既に立案されている。また、流路壁面における摩擦応力を可逆的にイメージングすることにも挑戦しており、そのための合成戦略が整いつつある。さらに、低い閾値で蛍光応答する水溶性FLAPは、血液の中の血球を遠心分離で除くことなく、液体部分(血漿)の粘度を直接イメージングできる可能性がある。 また、これと並行して、申請時の提案をさらに発展させた研究として、光安定性の高いペリレン骨格を翼にもつFLAPフォースプローブを合成し、単一分子蛍光スペクトル測定によって高分子1本鎖の応力緩和過程を追跡できないかチャレンジする予定である。
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