一重項ビラジカル状態、すなわち電子が弱く対形成した状態は 、閉殻性と開殻性が共存する特殊な電子構造を有している。その弱い電子対同士が相互作用しあう(=共役する)分子系は 、閉殻と開殻の共存性の多重化に伴う特異な性質を示すことが期待できる。 本研究では 、①弱い電子対の形成が可能なラジカル種を多数配置した分子系(=マルチラジカル系)を新たに合成し 、②弱い電子対の共役を分子構造と電子構造の観点から詳細に明らかにし 、③その特殊な電子状態に起因する特徴的な物性・機能性を見出すこと で、「弱い電子対が共役した系の物質科学」を確立することを目的とする。本研究では、申請者の実験研究(新規化合物の合成とその物性評価)と研究分担者の理論研究(高精度量子化学計算を用いた解析)という相補的アプローチによって 、実験的検証がいまだ不十分な弱い電子対の共役という概念を確立することを目指す。 本年度は、フルオレニルラジカルの環状六量体を合成し、ヘキサアニオン種の発生につづくヘキサラジカルの発生を試みた。しかし、アニオン種の難溶解性やヘキサラジカルの不安定性のため、単離・同定には至らなかった。また、ジアザフルオレニルラジカルを複数個分子内に導入した化合物の合成にも挑んだ。ジアザフルオレニルラジカル2枚体、3枚体の前駆体の合成には成功したが、ラジカル種の同定には至らなかった。 一報、昨年度より取り組んでいるフェナレニルラジカルの環状六量体については、ラジカル前駆体の合成に成功した。脱気封管中でヘキサラジカルの発生を試みたところ濃緑色の固体が得られ、ESR測定の結果マルチラジカル種であることを突き止めた。また、ヘキサラジカル種を銀基板上に蒸着させ、AFM・STM/STS測定を行い、ヘキサラジカル状態であることを確認した。
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