今後の研究の推進方策 |
室温でのπ単結合化合物の長寿命化:我々は,77-120 Kの低温でのπ単結合種の単離に成功している.室温付近でπ単結合種が単離可能になればより詳細にπ単結合の化学を明らかにすることができる.そこで,嵩高い置換基とマクロ環によるπ単結合化学種の長寿命化を実施する. ・嵩高い置換基効果の検討:π単結合性一重項ジラジカルの寿命はσ結合化合物への環化反応速度で決まる.その際,平面構造のアリール基が近づきσ結合になる.この過程を速度論的に遅くする事が出来れば, S-DRの長寿命化が実現できる.そこで,適度な空間を持つ嵩高い置換基としてm-terphenyl基を用い,π単結合化合物の速度論的安定化を諮る. ・分子歪みに基づくストレッチ効果の検討:分子歪効果を利用したπ単結合化合物の長寿命化を実施する.具体的には, π単結合を中員環の骨格内に導入し,π単結合の2つの炭素が分子歪みによるストレッチ効果によって近づけない設計を施した分子を合成する.つまり,2,7-ナフタレンや3,6-フェナントレン等のπ平面ユニットをマクロ環内に導入し,σ結合化合物で生じるπ平面ユニットの歪に基づくπ単結合の速度論的安定化を試みる. ・粘度効果によるπ単結合化学種の長寿命化:上記したように,π単結合はσ結合へと化学変化する.この過程は,置換基の大きな動きを伴う.そこで,π単結合性化合物の寿命に及ぼす置換基と溶媒の粘度効果との相関関係を精査し,π単結合化学種の長寿命化を実現する.粘度効果を精査する上で,反応ダイナミクスに及ぼす溶媒効果の専門家である大賀恭博士と重光保博博士を協同研究者として加え,動的分子運動に及ぼす粘度効果の詳細を明らかにする.具体的には,ほぼ同じ極性を有するが粘度が大きく異なるシクロヘキサンとジシクロヘキシルメチルペンタン中でのπ単結合化合物と嵩高い置換基を持つ場合の寿命に及ぼす粘度効果を精査する.
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