研究課題/領域番号 |
21H01923
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
谷野 圭持 北海道大学, 理学研究院, 教授 (40217146)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ペリ環状反応 / 転位反応 / 中員環 / 全合成 / 高次構造天然物 |
研究実績の概要 |
自然界には、様々な大きさの炭素環が互いに縮合した複雑な分子構造を持つ天然有機化合物が数多く存在する。それら天然物の化学合成は医薬品の開発にも繋がり、学術面のみならず社会的な要請にも応える重要な研究課題である。本研究の目的は、独自に開発した有機合成反応を駆使し、従来の方法では困難な中員環炭素骨格構築法を開発することにある。さらに、天然物合成への応用を通して、その有用性を実証する。 2年目の取組みとして、種々の電子求引基を導入したトリエン基質を合成し、塩基を作用させて生じるヘプタトリエニルアニオンの8π系電子環状反応を系統的に検討した。その結果、前年度に報告したリン酸エステル基に加え、エステル基やシアノ基が電子求引基として有用であり、対応する7員環ジエンを高収率で与えることを見出した。これらの環化反応では、生じる7員環アニオンにヨウ化メチルなどの求電子剤を加えることで、電子求引基のα位にワンポットで置換基が導入可能であることを明らかとした。 これらの結果を受けて、7員環と5員環からなるヒドロアズレン骨格を有する天然物6,11-epoxyisodaucaneの全合成研究に着手した。8π系電子環状反応により7員環骨格を構築後、エポキシド側鎖との結合形成により5員環を構築し、さらなる官能基変換を経て11工程と極めて効率的な全合成を達成した。この全合成研究を通して、発見者によって提唱されていた6,11-epoxyisodaucaneの立体配置に誤りがあることを見出し、別の立体異性体を合成することで、これが真の天然物と一致することを証明する学術的成果を挙げることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の主要な目的の一つである「8π系電子環状反応による7員環構築法の開発」については、既に2報の学術論文にまとめてOrganic Letters誌にて発表している。さらに今年度は、本反応を鍵工程としてヒドロアズレン骨格を有する天然物6,11-epoxyisodaucaneの全合成を達成し、これもOrganic Letters誌にて発表した。この合成研究を通して、シアノ基を有する7員環ジエンにブチルリチウムを作用させてトリエニルアニオンを発生させる新手法の開発にも成功している。
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今後の研究の推進方策 |
「高効率的ジビニル化合物合成法」に関しては、本手法にClaisen転位およびCope転位反応を組み合わせた9員環構築法を確立できている。そこで今後は、その応用として軟体サンゴから単離されたテルペノイドCristaxenicin Aの全合成研究を行う。このものは、リーシュマニア症の原因原虫に対する高い抗原虫活性を示し、治療薬のリード化合物として期待される天然物である。 8π系電子環状反応に関しては、アニオン安定化基としてリン酸エステル基の他、エステル基やシアノ基を導入したトリエン基質が7員環を与えることを既に見出した。ただし、置換基の種類やシロキシ基の有無や用いる塩基によって目的物の収率が大きく変動することから、今後はより網羅的な基質適用範囲の検討を行い、汎用性のある7員環構築としての確立を目標とする。 さらに上記の検討と並行して、アニオン性ジビニルシクロプロパン転位について検討を行う予定である。ジビニルシクロプロパン転位反応は、通常は加熱条件で実施されるが、嵩高い置換基が導入された基質では、全くの原料回収に終わる場合がある。これに対して本研究者は、塩基を共存させることで劇的に反応が加速される場合があることを見出した。今後は、この知見を反応機構面で掘り下げることで、新たな研究テーマの創生につなげることを目指す。
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