研究課題/領域番号 |
21H01933
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
柴田 哲男 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40293302)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 化学結合切断 / 双生イオン / 複素中員環 / イオンリレー型 / 脱炭酸 / 電子求引性基 |
研究実績の概要 |
R3年度に引き続いて,研究計画に従い,双生イオン源と金属触媒を用いた複素中員環構築法の開発を行った。先に報告したN-トシル-3,3-ジフルオロオキシインドールと双生イオンの付加環化反応では,アミドのC-N結合を開裂できたことから,フッ素ではなくても電子求引性基をα位に有するオキシインドールに対して双生イオンを作用させることで,C-N結合の開裂と続く閉環反応が進行して,環拡大反応が進行するのではないかと予測できる。ここでビニルアルコール構造をもつ双生イオンを用いることで,閉環と同時に双生イオン側で脱炭酸が進行するリレー型反応が起きて,再度環開裂―閉環反応が進行して酸素原子を環内にもたないヘテロ中員環と合成できると考えた。そこでシアノ基をもつ3-シアノオキシインドールと双生イオンの付加環化反応を検討した結果,想定通りに2回脱炭酸反応が進行して8員環構造をもつテトラヒドロベンゾアゾシン類を高収率で得ることがわかった。本反応は双生イオンを変えることで,7員環構造のテトラヒドロベンゾアゼピン類の簡便合成にも成功した。反応機構解析を行った結果,電子求引性基の種類や電子求引性基付近の立体障害,インドールの窒素上の置換基が影響することを明らかにした。 反応を制御する官能基として,フッ素やトリフルオロメチル基だけでなく,シアノ基で興味深い結果を示すことがわかったことから,シアノ基より強力で,かつフッ素を持つ電子吸引性を有するペンタフルオロスルファニル基やテトラフルオロスルファニル基を用いれば,より効率的に反応が進行すると考えた。しかしながら,これらの官能基を持つ原料合成が簡単ではない。そこでまず,テトラフルオロスルファニル基を持つ化合物の合成手法を種々検討した結果,テトラフルオロスルファニル基を持つアルキンの合成に成功し,そのアルキンからケトンやイソキサゾリンなどの変換に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度で開発した,電子不足アミド結合に対するPd触媒と双生イオンの反応を拡大して,容易に入手可能なオキシインドールと双生イオンの2回脱炭酸型環拡大反応によりテトラヒドロベンゾアジン類及びテトラヒドロベンゾアゼピン類を一挙に合成する手法の開発に成功した。オキシイオンドールに電子求引性基のシアノ基を導入することでC-N結合の電子密度を下げることがC-N結合開裂に関与していることを見出した。フッ素原子を導入しなくとも,適切な電子求引性基を導入することで,C-N結合の切断が可能になることを見出しており,更なる分子変換方法に応用可能な知見であるといえる。また,その結果を足がかりに,研究展開させるべく,新たな含フッ素電子求引性官能基であるテトラフルオロスルファニル基を持つ化合物の合成を検討したところ,テトラフルオロスルファニル基を持つアルキン類の合成に成功した。このことから,(2)と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
R4年度までに体系化した,隣接位の電子求引性基による結合電子密度低下を利用する,炭素―窒素(C-N)結合と炭素―酸素(C-O)結合を標的とした結合開裂/付加環化反応による中員環合成を更に発展させる。また,双生イオンの環拡大反応について,基質一般性の拡大とともに,不斉反応への展開を検討する。さらにテトラフルオロスルファニル基を導入した基質での中員環合成や炭素―炭素(C-C)結合あるいは炭素―フッ素(C-F)結合など不活性な化学結合の穏和な切断を伴う分子変換法の開発を目指す。 また,今年度進めることのできなかったビアリール構造を持つ基質に対して双生イオンを作用させ,ビアリール骨格を環骨格に有する中員環化合物の合成法の開発を行う。これらの反応は,不斉リガンドを検討して不斉合成への展開も行う。双生イオンの種類によって,リガンドの最適化と調整を行い,新規触媒の開発を同時に行いつつ,不斉収率の向上を狙う。このほかにもメカノケミカル,電解反応,光反応を活用して,不活性化学結合切断を鍵とする分子変換法の開発を推進する。
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