研究実績の概要 |
位置選択的な炭素-水素(C-H)結合変換反応を中心に反応の開発を行った。 我々は以前に、イリジウム触媒のウレア部位と基質のカルボニル基との間に働く水素結合を利用することで、従来困難だった芳香族化合物のメタ位やオルト位選択的なC(sp2)-Hボリル化反応の開発に成功している。また、アニオン性を有するデカタングステン酸塩光触媒とカチオン性を有するアニリニウム化合物との間に働く静電相互作用を利用することで、芳香族アニリニウム塩のオルト位選択的なベンジル位C(sp3)-Hアルキル化反応の開発に成功した。これらの研究成果に基づき、基質適用範囲の拡張を図るべく、複数の官能基を含む生体分子であるアミノ酸やペプチド類の選択的な変換反応について検討した。その結果、アミノ酸であるバリンやバリンを含むジペプチドやトリペプチドのバリン選択的なC(sp3)-Hアルキル化反応が実現できることを明らかにした。 我々は以前に、糖類の分子内水素原子移動反応を利用することにより、位置選択的なC(sp3)-Hアルキル化反応が進行することを見出している。この反応を分子間水素原子移動反応に展開することに成功し、糖類の位置選択的なC(sp3)-Hアルキル化反応の開発に成功した。本反応において、アントラキノン触媒では結合解離エネルギーの最も小さいC-H結合で、よりかさ高いデカタングステン酸塩光触媒では立体障害の最も少ないC-H結合でそれぞれ反応が進行することを見出すことができ、触媒を置き換えることで反応点をスイッチできることを明らかにした。また、本反応を利用することで、新たな脱離基である5-アンモニウム-4,4-ジメチルバレリル基を開発し、アルコールやアミン類の脱保護反応や放出反応を開発することができた。
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