研究実績の概要 |
本研究では、剛直な骨格をもつ大環状多核錯体を活用した高選択性・高活性反応を開拓することを目的としている。2022年度は、N,Nの2座キレート配位部位であるピリジルベンゾオキサゾール(pbo)の環状多量体とその多核錯体の合成に関する研究を行った。研究代表者らはこれまでに、イミン結合形成によってピリジルメチレンアミノフェノール(pap)の環状6量体hexapapを合成し、その多核錯体の分子認識について報告してきた。イミン結合などの動的共有結合を含む環状分子と比べて、これを持たない環状分子は安定性が高く、反応場としてより広範な活用が期待できる。今回、イミン結合形成によるhexapapの合成の知見を活かして、o-アミノフェノール部位とアセタール保護した2-ホルミルピリジン部位とを有する両官能性単量体の多量化反応により、papのN,N,O配位部位が環骨格の外側を向いた環状3量体を高収率で得た。そして、pap部位の酸化的変換反応により、pboの環状3量体を合成した。こうして得られた3量体は酸化的変換によって2-メチレンアミノフェノール部位がベンゾオキサゾール部位へと不可逆に変化しており、安定かつ剛直な分子である。単結晶X線構造解析の結果から、pbo環状3量体は平面性の高い骨格を有し、そのキレート配位部位が内孔を向いて集積されていることが確かめられた。また、得られたpbo環状3量体に対してパラジウム塩を用いて錯形成の検討を行ったところ、単結晶X線構造解析の結果から、ベンゼン環のプロトンが引き抜かれてパラジウムに対して配位子がN, N, Cの3座で配位した3核錯体が生成したことが示唆された。
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