研究課題/領域番号 |
21H01950
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
堀毛 悟史 京都大学, 理学研究科, 教授 (70552652)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 結晶融解 / 配位高分子 / 金属-有機構造体 / エントロピー |
研究実績の概要 |
本研究では金属イオンと架橋性配位子から組み上がる様々な配位高分子(あるいは金属-勇気構造体)において、加熱によって結晶融解を示す物質群を対象とし、その融解メカニズムを解明することを目標として進めた。結晶融解は固体と液体のエンタルピーおよびエントロピーの差の比として表される。前者においては配位結合や分子間力を司る金属-配位子の組み合わせや結晶構造の次元性を系統的に調べ、幅広く変化させられることを見出した。後者については、とくに配位子の振動エントロピーや配座エントロピーが結晶融解に影響することをDSC等熱分析から明らかとした。例えばCu2+イオンとビピリジル系配位子からなる一次元鎖状構造については、いずれも同様の構造を取りつつ、アニオンが異なる化合物を四種類合成した。熱分析および理論計算から、結晶融解を支配する項目を検討したところ、よりエントロピー項が支配的に影響していることを見出した。この洞察はCu+イオンとイミダゾール系からなる一次元鎖状配位高分子でも明確に観察されており、イオン液体で近年報告されている融解とエントロピーとの相関が配位高分子でもなりたつことを示唆している。また、これら検討を行う中で、構造を構築する配位結合の運動性が、加熱によって特異的に大きくなる現象を見出した。これは幅広い結合エネルギーと配座を取る配位結合特有の現象であり、例えばガラス相における熱膨張挙動や誘電挙動に強く関連すると考えられる。これら成果は配位高分子や金属-有機構造体の結晶融解を理解し、設計する上で重要な知見であり、材料設計や機能発現にも強い相関を持つものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究開始時に目標とした、配位高分子あるいは金属-有機構造体の結晶融解を司るメカニズム解明に大きく近づく成果を得た。配位高分子は、全体の結晶構造は同等でありつつ、金属イオンや架橋性配位子、さらにはアニオンを系統的に変化できる利点と結晶構造の膨大なライブラリを有する。この中から適切な試料を選定、合成し、様々な解析(熱分析、放射光X線、固体NMR、力学特性評価など)を通して、熱力学的視点から結晶融解の説明に資する知見を得られたことにより、当該研究目標を十分達成できていると考えている。さらに得られた情報や知見から新たな融解性配位高分子の合成に着手できており、通常の加熱によって結晶融解を示さない化合物においても、過冷却液体状態を作り出すことにも成功している。それらは物質として非常に柔らかく成形加工性に優れる特徴を有することから、機能性材料として長く知られる配位高分子や金属-有機構造体の材料としての活用の幅も大きく広げる成果である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究によって、配位高分子や金属-有機構造体がもともと有する結晶構造の情報(金属-配位子の組成、結晶構造の次元性、結合の強弱など)をもとに、結晶融解現象を予測したり、あるいは新たな設計の可能性を提示できた。今後の研究では、機能性配位高分子、特に電子伝導性や光学的機能を示す配位高分子を結晶融解の視点から見直し、膨大な結晶構造ライブラリも活用することによって、成形加工性が高く、相転移の制御が可能な機能性配位高分子を対象として進めてゆく。形状として薄膜やファイバーといった形に加工するとともに、その形状で見られる各種物理・化学的機能の発現との関連性を探ってゆく。膜を利用した選択的ガス透過性や、伝導性膜を利用した分子センサーなど、より機能性材料として捉え、分子スケールの構造設計からマクロスケールに渡る材料設計を通して、新たな材料の形を提案してゆく。
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