研究課題/領域番号 |
21H01958
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
鈴木 博章 筑波大学, 数理物質系, 教授 (20282337)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | バイポーラ電気化学 / 電位制御 / 金属置換クーロメトリー / 電気化学回路 / ポテンショスタット |
研究実績の概要 |
(1) 閉じたバイポーラ系でのアレイ化の推進:現在主流となっている閉じたバイポーラ系では、2つの溶液を隔てる壁の存在により、多数のバイポーラ電極(BPE)の集積化は試みられてこなかった。そこで、電極反応が進行するBPEの両端以外を細いリード線で置き換えることを試みた。場所によるリード線の長さの違いの影響もなく、6×8あるいは9×10のアレイでカソード上での過酸化水素の還元に伴うアノード上での電気化学発光が観察されることを確認した。また、これを用いてDNAの一括検出も試みた。 (2) BPE上の精密電位制御: BPE上の酸化還元反応の精密制御には、BPE/溶液間の界面電位差の制御が必要となる。そこで、電流を流さないポリマーイオン感応膜(ISM)およびBPEの一部を含む電気化学回路を形成し、BPE/溶液界面の電位制御を試みた。ISMの電位を変えることにより、カソード上での酸素の還元に伴うアノード上での電気化学発光が顕著に変化することが確認された。 (3) ハイブリッド式金属置換クーロメトリー: 従来のバイポーラ電気化学系では、電気化学発光を検出に用いていたが、定量性の点では出力を直接電流値として取り出せた方が好ましい。そこで、アノード端でセンシングのための電極反応を進行させてカソード端に銀を析出させ、これをクーロメトリーにより検出した。50マイクロメータの電極アレイを銀の析出に用い、過酸化水素を検出対象として、想定された応答を確認した。 (4) 電気化学回路によるポテンショスタットの作製: (2)の電位固定機構はより複雑な電気化学回路を構築するための基礎となりうる。そこで、作用極電位を固定する電気化学回路によるポテンショスタットを作製し、その機能を評価した。フェリシアン化カリウムを検出したところ、電位固定回路で設定される電位および濃度による電流値の変化が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
21年度は次年度以降の計画で予定していたデバイスの動作の原理的検証までほぼ終了させることができた。22年度以降の研究の基礎を確立しただけでなく、新たな課題も見えてきた。その意味で、当初の計画以上に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 閉じたバイポーラ系でのアレイ化の推進: 21年度の研究で、リード線でカソード、アノードを接続したBPEアレイが機能することを確認した。しかし、検出限界に課題が残った。検出対象物質を一旦銀に置換して高感度化するデバイスをさらに検討する。 (2) BPE上の精密電位制御: 本研究課題の前段階の研究で、BPE上にイオン感応膜を形成して電位制御を行うことを試みていたが、この方式ではアノード側またはカソード側に形成した時に、アノードまたはカソードでの電極反応により設定した電位が影響を受けることが予想された。しかし、21年度に動作確認をした電位制御機構では、アノードまたはカソードまで含めたアノード側またはカソード側全体の電位を制御できるはずである。22年度はこの電位制御の精密性について評価と改良を進める。 (3) ハイブリッド式金属置換クーロメトリーによる高感度化: 21年度は直径50マイクロメートルの電極アレイを用いて原理的な検証を行い、実際に提案した手法で過酸化水素の検出が行えることを確認した。22年度は直径5マイクロメートルの電極アレイを用いることにより、検出限界を下げ、高感度化を図る。 (4) 電気化学回路によるポテンショスタットの作製: 22年度は基本的な機能は評価したが、電位の固定が不十分であった。そこで、電位固定回路で用いるイオン感応膜の大きさを変え、評価を進める。また、22年度は還元反応の検出を行ったが、酸化反応の検出が可能なデバイスの作製、評価も進める。
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