研究課題/領域番号 |
21H01966
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
加地 範匡 九州大学, 工学研究院, 教授 (90402479)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 細胞 / 細胞核 / 変形能 / 単一細胞分析 / 単一細胞核分析 |
研究実績の概要 |
細胞の機械的性質を単一細胞レベルで評価した研究は数多く報告されているが、測定精度とスループットの間に大きなトレードオフが存在し、両者を満たす決定的な手法は未だに開発されていない。そこで本研究では、申請者らがこれまで開発してきた非標識・非破壊で細胞の性質をモニターできる細胞変形能計測法を拡張し、細胞全体の変形能と細胞核の変形能を単一細胞レベルかつ細胞が生きた状態(再回収して再培養できる状態)でハイスループットに計測できる分析方法論の開発を目指した。 本年度は特に細胞核変形能測定の方法論の基盤となる、細胞からの細胞核抽出方法の検討を中心に行い、マイクロ流路への適用が可能なインタクトな核を抽出・精製方法の最適化を行った。細胞核の変形能は、細胞全体の変形能評価に大きな影響を与えるため、まずは細胞周期を揃えて同じゲノム量を含む細胞核の状態を作り出してから細胞変形能評価系を構築することが重要である。そこで、細胞周期を揃えるための飢餓培養条件をフローサイトメーターを用いることにより検討した。その後、細胞周期を揃えた細胞からtween20をはじめとした界面活性剤種とその適用濃度・時間、さらにはシリンジを用いた膜破砕条件について詳細な検討を進めた。その結果、細胞核膜を維持したまま細胞核を抽出する条件の絞り込みに成功した。しかしながら、抽出した細胞核は非常に粘着性でくっつきやすく、細胞核同士の凝集がかなり問題であることが分かった。今後は、如何にして細胞核同士の凝集を避け、個々の細胞核を変形評価デバイスへ導入して評価することができるのかを検討していく必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細胞核を抽出後、細胞核同士がくっついて凝集することは事前に予測していたが、凝集の程度が予想以上に激しかったため、細胞核抽出条件の最適化に想定以上の時間を要した。しかしながら、これまで我々の研究室で蓄積してきた知見を元に、マイクロチャンバーを用いた手法などと並行して検討を進めた結果、最終的には当初の予定通り、細胞核抽出・精製・単離のための界面活性剤条件を最適化することができた。これらの結果から、本研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、コロイダルプローブ顕微鏡を用いて抽出した細胞核の弾性率の直接計測を試みる。また、細胞核変形能測定デバイスの形状や流量、導入する細胞核の濃度等の実験条件の最適化を行い、細胞核の変形能評価を行うとともに、弾性率と狭窄流路通過時間との相関から、細胞の弾性率をマイクロ流路を用いて直接的に計測する方法論の確立へむけて検討を進める。懸案となっている細胞核の凝集やマイクロ流路への付着に関しては、細胞核表面への化学修飾もしくはリン脂質の付与など、細胞の表面を修飾する方法での付着防止方法とともに、マイクロ流路側をリン脂質でコーティングするなどの吸着防止処理を施すことで、解決策を検討していく。 現在はモデル細胞として取り扱いが簡単な子宮頸がん由来のHeLa細胞を用いているが、上記の方法論検討とともに、より細胞生物学的に意義のある細胞である結腸腺癌由来のHT29細胞をモデルとして細胞核変形能計測を行う。この細胞は、多能性が高い細胞種として知られていることから、細胞の多能性と多能性マーカーである細胞膜上の様々なタンパク質や糖鎖の発現量をモニターしながら、細胞・細胞核変形能との相関を検討する。最終的には、新しいがんマーカーとしての細胞変形能の可能性を示せるように研究を推進していく。
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