細胞の機械的性質を単一細胞レベルで評価した研究は数多く報告されているが、測定精度とスループットの間に大きなトレードオフが存在し、両者を満たす決定的な手法は未だに開発されていない。本研究では、申請者らがこれまで開発してきた非標識・非破壊で細胞の性質をモニターできる細胞変形能計測法を拡張し、細胞全体の変形能と細胞核の変形能を単一細胞レベルかつ細胞が生きた状態(再回収して再培養できる状態)でハイスループットに計測できる分析方法論の開発を行った。 本年度は、細胞表面とマイクロ流路壁面との間で生じる化学的摩擦力が生じていると仮定し、マイクロ流路の壁面にシランカップリング剤を経由してメルカプト基・アミノ基・ペプチド鎖を共有結合を介して修飾することで、細胞の物理・機械的変形能のみでなく、化学的相互作用の測定を行った。さらに、このような低分子のみならず、細胞表面に発現している幕タンパク質を特異的に検出するために、狭窄流路の両側に抗体を修飾する方法の開発と、細胞との相互作用解析を行った。その結果、官能基を修飾した流路、ならびに抗体を修飾した流路ともに、細胞腫に応じた細胞の通過時間に差異が認められたことから、細胞の機械的強度以外のパラメータとして、化学的表面相互作用を利用した細胞識別をハイスループットに行うことが可能であることを実証できた。本手法をもとに細胞核の変形能計測ならびに細胞核表面特異的なラミンタンパク質等の検出も検討を行ったが、細胞と比して細胞核はPDMS流路壁面表面に容易に付着することが判明したため、ハイドロゲルを用いた表面修飾法等により吸着を防ぐことができないか検討を進め、最終的には使用に耐える安定性で測定できる系を確立した。
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