研究課題/領域番号 |
21H01969
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
由井 宏治 東京理科大学, 理学部第一部化学科, 教授 (20313017)
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研究分担者 |
浦島 周平 東京理科大学, 理学部第一部化学科, 助教 (30733224)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 動的光散乱 / 単一泡膜 / 局所粘弾性 |
研究実績の概要 |
まず最初に、光学測定に耐える安定な泡膜の作成方法を検討した。シリンジを組み合わせた円筒形セルに界面活性剤水溶液を注入した後、余剰溶液を吸引することで、安定した単一泡膜を作成できるようになった。 つづいて、この泡膜内部における局所粘弾性を評価するため、単一泡膜からの動的光散乱計測を試みた。ただし、泡膜の厚みは数百nmから10 nm以下まで時々刻々と変化し、また空間的にも不均一である点に注意を払う必要がある。そこで計測点における泡膜厚みを定量評価するため、白色光の反射干渉を利用した観察光学系を動的光散乱システムに組み込んだ。この観察系では照射白色光の反射干渉光を二次元検出器で受け、その色をピクセルごとにRGB変換して数値解析することにより、光散乱計測前後の泡膜厚みをおよそ±10 nmの精度でイメージングできる。この方法によって得られた動的光散乱信号を自己相関解析したところ、単一泡膜には緩和時間200 μs以下の速いダイナミクスと、緩和時間数ms程度の遅いダイナミクスが共存することが明らかになった。さらに遅いダイナミクスの緩和時間を泡膜厚みに対してプロットしたところ、厚みの減少に伴って緩和が高速化することを見出した。本現象は、膜厚の減少(排水)に伴って泡膜内の界面活性剤濃度が増加することでミセルが増加し、このミセルが泡膜内にレンガ状の構造を形成することで泡膜の粘弾性が向上した結果によるものと捉えている。 以上、本年度は反射干渉観察と動的光散乱計測を組み合わせることによって、膜厚の変化に伴う局所粘弾性の変化を追跡できることを示した。これを受け、この局所粘弾性の変化をダブルチェックするため、ブリルアン散乱と呼ばれる非弾性散乱分光に着目し、光源や検出系の整備と基礎検討を行った。また、この粘弾性の変化をもたらす分子起源を明らかにするため、ラマン分光計測のための分光器-検出器系を整備した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究目的達成のためには、時々刻々と厚みが変化する単一泡膜に対し、空間的にも不均一な局所粘弾性を高速に追跡する必要がある。当該年度は、泡膜セルの設計・白色干渉計によるリアルタイム厚みイメージング・動的光散乱による局所ダイナミクスの追跡、を達成し、局所粘弾性イメージングに向けた大きな課題をクリアした。 またラマン分光・ブリルアン分光計測など、準ないしは非弾性散乱光に対する検出系など基本的な光学系の整備を完了させ、今後速やかにこれらの非弾性散乱計測にとりかかることが可能な状況にある。 以上の理由につき、おおむね順調に進展しているものと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度は、動的光散乱計測によって単一泡膜のダイナミクスを追跡できることを実証したが、現在のところダイナミクスは泡膜上のある一点の定点計測に留まっている。そこで今後はこれをイメージング測定に拡張することを目指す。具体的には、泡膜に光を照射する際に対物レンズを用いて絞り込むのではなく、入射レーザー光を一度後焦点面に集光することで泡膜に対して光が平行入射するように光学系を再構築する。 また、泡膜へのほこりなどの吸着が無視でき、周囲の音や空気揺らぎなど外的要因に由来する泡膜の運動が抑制され、かつ湿度が制御可能な環境下で計測を行うことが可能な、清浄かる静音環境を実現する環境制御セルを整備する。 さらに、動的光散乱信号から局所粘弾性を定量化するための解析手法を開発する。これまでは弾性散乱光の時間揺らぎに対して自己相関解析のみを行ってきたが、さらにフーリエ変換を組み合わせることで、その特性周波数から弾性を得ることを試みる。 さらに、非弾性(ラマン)散乱信号を同時に検出することで、局所粘弾性の起源となる分子間相互作用を探る。まずは分子パッキングに着目するが、得られる情報の精度や多角的な視点からの確認を与えるため、全体としての運動を反映する低振動モード(<100 cm-1)やブリルアン散乱(<~1 cm-1)にも注意して計測を進める予定である。
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