研究課題/領域番号 |
21H01984
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
井改 知幸 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (90402495)
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研究分担者 |
田浦 大輔 名城大学, 理工学部, 准教授 (20622450)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | らせん / 超分子ポリマー / キラリティ / 高次構造 / イソシアニド |
研究実績の概要 |
人工ラセン分子が様々な形態で規則配列した多彩な超分子構造体の創成と二次構造が集積することで生み出される高度に規制されたナノ空間を分子認識場・反応場として活用した機能材料の開発を目指し、以下に示す成果を得た。 【1】光学活性なアルキル基を側鎖に導入したキラルな全共役ラダーポリマーが、溶媒や温度などの外部環境に応答して、キラルな超分子ポリマーになることを見出すとともに、巨大な円二色性 (CD) および円偏光発光性 (CPL) を示した。分子分散状態では、明確な光学活性が観測されないことから、キラルポリマーの超分子形成に由来した光学活性であることが明らかとなった。 【2】「繰返しユニットの対称性とラダー化反応の位置選択性に基づいた分子設計」と「キラル高速液体クロマトグラフィー (HPLC) による光学分割技術」を融合し、アキラルユニットのみからなる光学活性な全共役ヘリカルラダーポリマーの合成に初めて成功するとともに、熱的に極めて安定なラセンキラリティに由来する巨大なCD信号を示すことを明らかにした。 【3】光学活性な6,6’位連結型1,1’-スピロビインダンユニットをラダー型ポリマー主鎖骨格に組み込むことで、分子認識に適した1 nm程度の不斉ナノ空孔を有する一方向巻きの中空ヘリカルラダーポリマーの合成法を確立した。さらに、π電子リッチなキラルな空孔を利用した逆相用HPLC用キラル固定相としての応用可能性も見出し、点不斉、軸不斉、面不斉化合物に対して優れた光学分割能を発現することも明らかにした。 【4】オリゴエチレングリコールスペーサーを介して、光学活性なビナフチル基を側鎖末端に導入した水溶性ポリアセチレン誘導体を設計・合成し、主鎖から離れた位置に存在するキラルペンダントによるらせんの超遠隔不斉誘導に成功した。また、溶媒依存型のらせん反転及びらせんの巻き方向の自己修復現象も見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記載の当初計画にのっとり、合成、構造解析、機能化に関する実験を遂行し、目的を達成するとともに、得られた成果を著名な国際誌に複数発表していることから、研究はおおむね順調に進行していると判断した。従来のヘリカルラダーポリマーの合成法とは一線を画し、「独自に開発したラダー化反応」、「対称性を考慮した緻密な分子設計」、「キラルHPLCによる光学分割」を組み合わせ、キラルユニットを一切用いることなく、分子内にラセン以外に不斉な要因を持たない光学活性な全共役ヘリカルラダーポリマーの合成に成功した。これは、目的とするキラル超分子ポリマーの分子設計の自由度を飛躍的に高めることにつながり、「より複雑かつ精緻な高次構造の構築」を可能する。さらに、分子内の連続的なアルキン芳香環化を鍵反応として、「分子認識部位として機能する不斉ナノ空孔」を含有する一方向巻き中空ヘリカルラダーポリマーを合成し、光学分割能の創出に成功した。これは、中空ヘリカルラダー構造の構築が、高性能な機能性キラル材料を開発するための有力な戦略になり得ることを示した点で画期的な成果と言える。加えて、光学活性なアミノ酸側鎖を導入したポリアセチレン誘導体のラセン構造が、溶媒環境に依存して、バネのように伸縮する現象を見出し、二次構造変化に伴う光学分割能の切り替えも達成した。これは、今後のキラル材料への応用を見据えた分子設計に活かすことができる重要な知見と考えている。また、「世界最高の分子内超遠隔不斉誘導を利用した合成高分子の二次構造制御」や「ラセンの自己修復現象」、さらには、キラル側鎖を導入した全共役ラダーポリマーが、外部環境に応答して自己集合し、超分子化に伴ってCDおよびCPLが発現するという、当初想定もしていなかった極めて意義深い成果を含め、二次構造と超分子を融合した新たな科学の開拓に結びつく、多くの知見も多数得られた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた成果を踏まえ、二次構造を有する高分子、キラル高分子が様々な形態で規則配列したより複雑、多彩な超分子構造体の合成を行うとともに、ラセンが集積することで生み出される高度に規制された不斉ナノ空間をキラル認識場・不斉反応場として活用した「光学分割やキラルセンシング、不斉合成に関連する機能の開拓」を目指し、さらなる綿密な分子設計・条件検討を行う。最終年度であるという認識のもと、目的達成に向けた検討を鋭意遂行し、以下に示す研究を強力に推進する。 1. これまでの成果をさらに推し進め、「剛直なラダー骨格を主鎖に導入したキラル高分子からなる集合体」の不斉増幅を伴った超分子キラリティの制御を目指す。キラルラダー高分子およびヘリカルラダー高分子がさらに三次元的にラセン状集積可能な自己組織化条件を徹底的に検討する。 2. ラセン配列により生まれる高度機能の創出を目指し、「二次構造を有する高分子を構成成分とする超分子ポリマー」が形成するπ電子リッチで特異な形状のキラル空孔を分子認識場として活用し、高精度かつ高効率なキラル分離や、難分離物質の精製に関する機能開拓を行う。さらに、ラセン空孔を反応や重合の不斉な反応場として捉え、これまでに例のない不斉反応や立体特異性重合の実現を目指す。得られる結果を分子設計へフィードバックし、材料特性のさらなる向上を図る。 3. 溶液中において、「キラルな二次構造からなる超分子ポリマー」の不斉をアキラルポリマー(特に、剛直な主鎖骨格を有するアキラルなラダーポリマー)に効率的に転写・増幅させる条件を徹底的に検討する。最終的に、溶液中で形成したキラルな高次構造を保持したままフィルム形成または固体化させる条件を探索し、不斉増幅型のキラル材料開発の方法論を確立する。 これまでに得た研究成果に更に磨きをかけ、より重厚な論文として国際誌に投稿する。
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