研究課題
本年度は特にOECTの活性層に機能性高分子を混合することで新たな機能の付与を実現する方法について、構造・物性両面から検討を行った。今回は例として、温度応答性高分子PNIPAMを混合した系に注目し、温度変化によって起こる体積変化とそれによる膜の破壊への対応を検討した。このため、架橋剤として柔軟性の高いPEGDEを用いて温度応答性高分子と共役高分子の混合膜を活性層上に成膜し、その構造および素子特性について検討を行った。GIWAXS測定を行った結果、neat膜と比較して混合膜では結晶化したPEDOTのπ-πスタッキングに対応したピークの散乱強度が減少しており、結晶性の低下が確認された。また、混合架橋剤を用いるとPEDOTの結晶性が増加することが分かった。次にブレンド膜の深さ分解XPS測定を行った結果、表面にPNIPAMが偏析した構造であることが分かった。続いて、OECT測定を行った結果、OECTの活性層にPNIPAMを混合し、架橋剤として混合架橋剤を用いた場合も、ディプレッションモードで動作することを確認した。次に、導電率と電気容量を個別に評価した結果、PNIPAM添加でいずれも減少傾向を示した。これらを比較すると導電率の低下が大きく、最終的な素子特性には移動度減少が比較的大きなインパクトを与えると考えられる。最後に混合架橋剤を用いて作製した混合膜の温度依存性の確認を行った。温度サイクル測定後に混合膜表面を観察した結果、GOPS単独架橋膜では膜に亀裂が見られ、温度変化による体積変化に耐えられないことがわかった。一方でGOPS+PEGDE混合架橋剤を用いた場合にはこの亀裂は見られず、降温方向、昇温方向の両方で可逆的な温度応答が確認された。以上より、混合架橋剤を用いることで可逆的な温度応答ができるOECTデバイスへの応用が可能であることが示された。
2: おおむね順調に進展している
上記の通り、機能性高分子の添加に伴う膜構造の評価や素子特性評価に関する基盤は整い、実サンプルの評価に供することができるようになった。本研究で目指している赤外MAIRS測定系についても整備が完了し、測定条件の決定を完了するなど順調に進んでいる。
今年度は混合伝導体膜の分子配向を含む構造評価手法を検討する。赤外MAIRS測定系を用いた検討ではデータ解析手法の最適化に注力し、得られた測定データから分子配向、集合構造に関する詳細な結果を得るための検討を進める。
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Advanced Materials Interfaces
巻: 9 ページ: 2201736~2201736
10.1002/admi.202201736