高分子フィルムの力学物性評価は、一軸伸長試験によって評価された研究がほとんどであり、より実用条件に変形に近い二軸伸長変形に基づく評価はエラストマーやゲルでは行われているものの、結晶性高分子に関してはほとんど報告された例がない。ひものような一次元的な分子鎖形態を有する高分子のうち屈曲性に富む結晶性高分子の場合、一軸変形下において、すぐに一方向に配向してしまう。このため、複雑な階層構造を有する結晶性高分子において、一軸変形下の結果は極めて特殊な一部分の情報に過ぎない。さらに、結晶性高分子は、固体であるにもかかわらず配向が容易に起こるため、二軸伸長変形による評価が必要であると考えられるがほとんど行われていない。本研究申請では、二軸伸長変形時の結晶性高分子膜の力学物性を評価するとともに、伸長変形過程におけるその場解析法に基づき分子鎖凝集構造変化の特異性を解明することを目的とする。 2022`年度は、結晶性高分子の代表である線状低密度ポリエチレン(LLDPE)フィルムの二軸伸長過程における力学物性およびその場構造変化を広角X線回折(WAXD)測定および偏光高速度カメラ(PHC)観察に基づき評価した。その結果、WAXD測定により、LLDPEでは、低ひずみ域で直方晶から単斜晶への結晶転移が起こることが明らかとなった。さらに、PHC観察より、その後さまざまな方向の降伏がフィルム内で起こり、最終的には、均一な配向状態に到達して破断に至ることが明らかとなった。
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