研究課題/領域番号 |
21H02006
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
佐光 貞樹 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 統合型材料開発・情報基盤部門, 主幹研究員 (80432350)
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研究分担者 |
廣井 卓思 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 若手国際研究センター, ICYS研究員 (20754964)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | メソ多孔体 / 溶媒誘起結晶化 / 動的光散乱 / 核生成 / ポリエーテルスルホン / 微粒子 |
研究実績の概要 |
本年度はポリエーテルスルホン(PES)をモデル高分子として、ニトロベンゼン溶液で起きる溶媒誘起結晶化挙動を詳細に検討した。高分子濃度と結晶化温度を変えたときの結晶化過程を透過率測定で追跡した。結晶化温度が低く、高分子濃度が高いほど透過率の減少速度が速く、結晶化が速く進行することを確認した。得られた微粒子の大きさと形状はSEMとレーザー回折粒度分布計で評価した。濃度20 wt%の溶液からは平均粒径が5μmの球状微粒子が得られ、粒子表面には多数の微細孔が確認できた。微粒子の微多孔質構造はガス吸着測定で定量的に評価した。平均細孔径は7 nmで空隙率44%の多孔構造が確認できた。PESの結晶構造はX線回折で評価し、融点をDSCで決定した。PESとニトロベンゼンが共結晶を形成していることを、FT-IR・ラマンスペクトル・TGAで確認した。PES濃度を変えたときの粒径・結晶性・微多孔質構造の変化と結晶化過程での溶液撹拌の有無による結晶化挙動の違いから、溶液撹拌によってできた結晶断片が種結晶(シード)として働き、微粒子の生成を促進している結晶化機構を提案した。結晶化で得られた多孔質PES微粒子の評価と並行して、結晶化過程を追跡するための動的光散乱装置の立ち上げを進めた。レーザーを使った動的光散乱(DLS)測定の光学系を構築して、ポリスチレン標準微粒子(粒径100 nm)でDLS測定ができることを実証した。光散乱強度は粒径の増加によってべき乗で増大するため、DLS測定では一般に粗大粒子や溶液中のゴミの影響を受けやすく、サイズの異なる粒子が混在すると測定が難しい場合がある。この課題を回避するため、ノイズを回避できるデータ解析システムを考案した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題を進める上で基盤となる溶液中での高分子の結晶化の概要を把握し、その成果をまとめ、原著論文としてElsevier社のPolymerに発表できた。また次年度以降に必要な動的光散乱装置を組み上げており、予備測定に着手することができている。動的光散乱法を溶液中での結晶化研究に展開するため、粗大粒子の影響を回避できる新たなデータ解析手法(全光子記録型データ解析とパルス同期方式)を開発し、その手法をSTAM methodsおよび日本分析学会のAnalytical Sciencesに原著論文として発表できた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、溶液中での高分子結晶化過程の解明に向けた検討を進める。具体的には、昨年度に立ち上げを進めた動的光散乱装置に、温度制御可能なサンプルホルダーを導入して、温度制御下での結晶化過程のキネティクスをDLS測定する。この結果から、単分子で溶解した高分子鎖から結晶化が起きる初期過程での凝集体のサイズ変化の情報を得る。この凝集体のサイズ変化に加えてin situで結晶性を評価するため、最終年度に向けてDLSとラマン分光の同時測定系への拡張を進める。科研費の物品予算でラマン測定に必要な分光器の購入は完了しており、その分光器に組み合わせて使う電子冷却型CCD検出器を導入して、ラマン分光検出系に必要なパーツを揃え光学系を組み上げる。このDLSとラマン分光の同時測定光学系の構築が完了した後で、この光学測定系を活用して溶液中での高分子の結晶化初期過程の解明に取り組む。
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