研究課題/領域番号 |
21H02006
|
研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
佐光 貞樹 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 統合型材料開発・情報基盤部門, 主幹研究員 (80432350)
|
研究分担者 |
廣井 卓思 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 若手国際研究センター, ICYS研究員 (20754964)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | メソ多孔体 / 溶媒誘起結晶化 / 動的光散乱 / ナノ結晶 / 核生成 / ポリエーテルスルホン / 微粒子 / ラマン分光 |
研究実績の概要 |
本年度は高分子溶液中で起きる溶媒誘起結晶化挙動をin situで時分割観測するための、動的光散乱・ラマン散乱同時計測装置を構築した。既設の動的光散乱システムに、新たに分光器と高感度検出器を導入して微弱なラマン散乱光を検出できる光学系を拡張した。これにより、動的光散乱およびラマン散乱を秒オーダーで同時に時分割計測できるシステムが開発できた。ラマン散乱の検出では、一般的なラマン分光に加え、ブラッググレートノッチフィルタを新たに導入して10 cm-1までの超低波数領域でのラマン分光にも取り組んだ。超低波数領域のラマン散乱光を使うと結晶の格子振動に起因するピークが解析できる。さらに、倒立型顕微鏡と組み合わせることで、10 μL程度の微量の試料に対しても動的光散乱およびラマン散乱を同時計測できるシステムにも拡張した。 開発した装置を用いて、濃度5 wt%のPESのニトロベンゼン溶液からの溶媒誘起結晶化挙動の定性的検討を行った。角セル中に封入した溶液について、温度を5~90℃の間で変化させながら、動的光散乱とラマン散乱を同時計測した結果、動的光散乱で得られる時間相関関数およびラマンスペクトルの強度比が分~数時間のオーダーで定性的に変化する様子を観測できた。 また、開発した装置の横展開として、イオンゲルの合成過程の時分割計測も行なった。イオン液体中におけるモノマーの重合過程をin situで追跡した結果、イオン液体中で超高分子量のポリマーが成長し、化学的架橋点を持つことなく、絡み合いによってゲル化していく時系列を実験データとして示した。 さらに、本検討から着想を得て、ラマン散乱強度の時間相関関数を計測するという新たな計測手法(動的ラマン散乱)を開発できた。当該装置を用いることで、今まで不可能であった分子選択的な動的光散乱計測が可能になることを理論・実験両面から証明した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題の主要技術である新規その場光ナノ計測法の開発が完了した。当初の狙い通りに、溶液中で結晶化の初期過程を時分割計測することに代表的な実験条件で成功した。さらに、新たな計測技術である動的ラマン散乱法を開発し、その成果を論文にまとめているところである。この開発した装置は、高機能イオンゲルの合成過程の解明にも貢献し、一連の研究成果をScience Advancesに共著として発表できた。所属機関からプレスリリースし、新聞にも掲載されるなど大きなインパクトを与えた。
|
今後の研究の推進方策 |
2023年度は、開発した装置を本格的に運用し、溶媒・温度・濃度などの実験条件を系統的に変えた一連の計測を行い、溶液中での高分子結晶化過程を解明する。これまでの検討で見出した、結晶成長に至るまでにいくつかの特徴的な溶液状態について溶媒・温度・濃度などの効果を精査する。また、結晶化の進行を定性的に観測する手法として、透過率の計測も同時にできるようシステム拡張を施し、透過率をモニターすることによって溶液中での高分子結晶化過程をさらに詳細に推定できるよう取り組む。
|