研究課題
昨年度までに動的光散乱・ラマン散乱の同時計測光学系を構築した。本年度は動的光散乱法を分子選択的な測定原理へと拡張することを目指し、ラマン散乱光を利用する動的ラマン測定系の構築に取り組んだ。動的光散乱では、拡散運動する粒子から発生するレイリー散乱光の干渉の時間変化を、散乱光強度の時間相関関数の緩和として観測している。そのため、インコヒーレントな散乱光である自発ラマン散乱では、原理的に動的光散乱は計測できない。そこで、コヒーレントで分子選択的な散乱光であるCoherent Anti-Stokes Raman Scattering (CARS)を利用する測定原理を提案した。ここで、CARSで一般的である位相整合条件が満たされてしまうと、粒子間におけるCARS光の干渉が粒子位置に依らず常に強め合うため、粒子位置の揺らぎに起因するCARS光強度の揺らぎは観測されない。この点を解決するため、位相整合を満たさないCARS光である後方散乱CARS光(epi-CARS)を用いた光学系を開発し、コヒーレントなラマン散乱光を用いる動的光散乱法を検証した。本研究で構築した測定装置を用い、半径60 nmのポリスチレンナノ粒子(0.5 wt%)と半径100 nmのシリカナノ粒子(0.5 wt%)の混合水分散液に対して動的光散乱および動的ラマン散乱測定を行った。測定の結果、動的光散乱ではシリカナノ微粒子に起因する緩和成分が有意に存在するのに対し、動的ラマン散乱ではシリカ由来の成分が観測されなかった。この結果から、動的ラマン散乱においてポリスチレン由来の信号のみを分子選択的に取得できることを実証した。今後の予定として、本研究で構築した光学測定装置群を活用し、溶液中での高分子の結晶化の初期過程を明らかにしていくことを計画している。
令和5年度が最終年度であるため、記入しない。
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