研究課題/領域番号 |
21H02011
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
平田 修造 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 准教授 (20552227)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 室温りん光 / 三重項励起状態 / 熱失活 / 非放射失活 / 無輻射失活 / 三重項励起子 / 量子化学計算 / 蓄光 |
研究実績の概要 |
本研究では、分子固体の室温での三重項失活速度の推定法の確立を目的としている。三重項失活速度の推定法を正しく推定するためには、材料の三重項からの輻射速度(kp)、三重項からの非放射遷移速度(knr)、および三重項からの分子間電子移動を経由した失活速度(kq)の3つを少なくとも定量的に議論し、推定可能な計算法を見出すことが必要となる。 knrに関しては、室温エネルギーでの全振動による分子配座変化を考慮したスピン軌道相互作用を計算した。また1970年代に報告されている手法を用いてフランクコンドン因子の計算を行った。この全振動を考慮したスピン軌道相互作用とフランクコンドン因子の両者を用いることで、15以上のさまざまな最低励起三重項(T1)エネルギーを有する有機分子や錯体のknrを良好に推定可能な計算手法を見出し論文に報告した。 kpに関しては、これまでに共役置換基の共役長を伸ばすことでknrに対してkpを選択的に増強させるサイエンスを報告していた。初年度はこの設計を用いた新規光増感分子を合成し、三重項-一重項のフェルスターのエネルギー移動を増強させることで、赤色領域でアフターグロー発光収率が向上する材料を報告した。 kqに関しては、結晶と非晶が可逆的に相転移する分子ホストに色素をドープしたホストゲスト材料において、結晶と非晶が変化した時にゲストが凝集しない材料を見出した。このホストゲスト材料では、ゲストのT1準位やホストのT1準位がホストが結晶と非晶の相転移時に変化しないため、純粋にホスト分子の結晶時と非晶時の分子運動の動きやすさの違いにのみに依存したkqの違いの議論が可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
材料の三重項からの輻射速度(kp)、三重項からの非放射遷移速度(knr)、および三重項からの分子間電子移動を経由した失活速度(kq)の3つを実験的に定量するとともに、その3つを推定可能な計算法を見出す取り組みを行っている。 knrに関しては、初年度にほぼ統計的にさまざまな種類のさまざまな最低三重項励起エネルギーを有する分子のknrを推定可能な技術の構築に成功した。この技術を用いると、計算科学でkpが向上する挙動が確認された時に、knrも増加してしまわないかの確認が可能となるため、knrに対して選択的にkpが増強する分子を推定していく上で重要な技術となると考えられる。 kpに関しては、初年度は研究開始前時に報告した高次一重項励起状態を加味したkpの計算法が、アフターグロー発光を得るための増感剤に適用可能な事を示すにとどまっている。一方で、knr同様に統計的にさまざまな分子のkpの推定が可能な計算方法の探索に着手している。 kqに関しては、ゲスト分子からホスト分子への電子移動に由来する三重項失活は、軌道のエネルギー準位およびホスト分子の運動性の両者が寄与していると長く考えられてきた。しかし後者の部分だけの寄与を明瞭に示す実験的な証拠はなかった。初年度のゲストの分散を維持したまま、ホスト分子の非晶と結晶が切り替わる材料を発見することで、ホスト分子の運動性の増加が分子間電子移動の増加に大きく影響することが明瞭化された。今後固体中での分子の超微小拡散挙動を実験で計測する技術と、それを計算で推定する技術が必要となる。
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今後の研究の推進方策 |
kpを統計的に推定可能な計算手法として、全振動を加味したkpの計算法を実施する。Kpの実験値と全振動を加味したkpの計算値を比較していく。分子サイズが大きくなると、計算時間がかかってしまうため、kpの変化に大きく影響を及ぼすと考えられる部位のみを熱統計的に振動させたkpの計算法も検討する。この計算法を通して、より良好にkpを推定可能な技術の構築を目指す。 kqに関しては、固体中での分子の超微小拡散の実験値を得るために、熱刺激電流計測装置を用いて電荷の動きにより固体分子の超微小拡散特性を評価する手法に着手する。ITO電極間にホスト分子固体中に微小のゲスト色素をドープされた膜を用意し、励起光を照射し2光子イオン化により電荷を発生させる。電荷発生後の電流値を温度を低温からスキャンして計測し、電流値を分子の動きやすさの尺度ととして評価する。また、分子動力学計を用いて、固体中での分子の超微小拡散挙動の計算値の算出を試みる。
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