研究実績の概要 |
本研究の最終目標は、有機分子系において生成される電荷移動(CT)型励起子に着目し、励起子解離過程における励起スピン状態選択性を実証することで、逆電子移動損失ゼロという革新的な光電変換素子を実現することである。 R3年度においては、熱活性化遅延蛍光(TADF)分子である2,4,5,6-tetra(9H-carbazol-9-yl)iso-phthalonitrile (4CzIPN)、1,2,4,5-tetrakis(carbazol-9-yl)-3,6-dicyanobenzene (4CzTPN)をモデル化合物として、薄膜中での電荷生成機構の解明、および励起スピン状態が励起子解離過程に及ぼす影響について研究を実施した。薄膜中での電荷生成機構の解明に関しては、光電子顕微鏡を検出器とする二光子光電子分光を用いた時間分解光電子顕微鏡(TR-PEEM)により、TADF分子膜中での電荷生成の過渡的な検出に成功した(Advanced Optical Materials, 9, 2100619, 2021)。また励起スピン状態が励起子解離に及ぼす影響に関する研究では、新たに開発した電場変調型過渡発光測定装置を用い、各種TADF分子をドーピングした共蒸着薄膜を試料として電場変調型過渡発光測定を実施した。その結果、分子内TADFを示す4CzIPN薄膜では、励起一重項準位からではなく、励起三重項準位から優先的に励起子解離が進行している事実を明らかとした(Science Advances, 8, abj9188, 2022)。これは、励起三重項状態の励起子寿命が励起一重項状態よりも極めて長いとともに、その励起子解離エネルギーが同程度であるためと理解できる。この結果は、従来は電荷損失の原因とされていた励起三重項状態が、本質的には励起子解離に対して有利であることを示す結果である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題では、CT型励起子の解離過程における励起スピン状態の役割など、有機分子系における一連の励起子失活過程と励起スピン状態の関係を具に明らかにし、励起スピン科学の学理を深化させるとともに、新たな価値を有する有機エレクトロニクスデバイスを創出することを目指している。R3年度においては、TR-PEEM測定により、永久双極子モーメントを有するTADF分子からなる薄膜において、光励起により生成したCT励起子から自発的に励起子解離が進行し、薄膜中で電荷が生成している過渡的挙動を直接測定することに成功した(Advanced Optical Materials, 9, 2100619, 2021)。また新たに開発した電場変調型過渡発光測定装置を用い、各種TADF分子をドーピングした共蒸着薄膜を試料として電場変調型過渡発光測定を実施した結果、分子内TADFを示す4CzIPN薄膜では、励起一重項準位からではなく、励起三重項準位から優先的に励起子解離が進行している事実を明らかとした(Science Advances, 8, abj9188, 2022)。以上の研究進捗状況より、本年度までの研究進捗状況は「当初の計画以上に進展している」と自己判断した。
|