研究課題/領域番号 |
21H02021
|
研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
吉尾 正史 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 機能性材料研究拠点, グループリーダー (60345098)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | アクチュエータ / イオン伝導 / 液晶高分子 / カラムナー液晶 / イオン液体 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、触覚デバイスへの応用を指向し、高速変形と強靭さを両立した電気駆動型高分子アクチュエータを構築することである。本年度は、一次元イオン伝導性液晶高分子フィルムを用いたアクチュエータを世界に先駆けて開発することに成功した(ACS Materials Letters誌の表紙に採用された)。光重合性イオン性分子とイオン液体の二成分自己組織化によるカラムナー液晶形成およびその場光重合固定化によって、イオン液体からなる一次元伝導パス構造を有するフレキシブル高分子フィルムを作製した。このイオン伝導性フィルムを2枚の導電性高分子電極で挟み、圧着することでアクチュエータ素子を構築し、レーザー変位計およびロードセルにより、アクチュエータの屈曲歪と出力を計測した。従来型イオンゲルアクチュエータと比べて、破格に少ないイオン液体含量8wt%にも関わらず、電圧2Vの印加において、大気下で安定な屈曲運動を達成した。さらに、自重の20倍の重りを持ち上げられることを実証した。また、同組成の秩序構造をもたない非晶性高分子フィルムと比べて、一次元チャンネル構造高分子フィルムでは、2倍以上の変位量および出力が得られることを明らかにした。本研究では、高分子フィルム内部にナノスケールの一次元伝導パスを形成する新しいアプローチによって、アクチュエータの高効率な電気力学変換の実現に成功した。また、湿度変化に応答して屈曲変形を示す酸化グラフェンアクチュエータの構築にも成功した。ここでは、積層グラフェンシート間での水分子の出入りによって、積層間距離が可逆的に変化する新たな現象を見出した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通りにイオン液体とイオン性液晶分子を混ぜることで、一次元イオンチャンネル構造を形成した高分子フィルムを構築し、高速変形と強靭さを両立した新しい電気駆動型高分子アクチュエータすることに成功した。この新しいアプローチによって、ごく少量のイオン液体を用いたアクチュエータの作製が可能になり、イオン液体のフィルムからのリークも防ぐことが可能となった。一次元イオンチャンネルをフィルム膜厚方向に均一に並べることができれば、さらなるアクチュエータ機能の向上が期待できる。10テスラの回転磁場を用いた液晶ドメインの配向制御の研究を行ったが、カラム構造が膜平面に平行な方向に配向したため、膜厚方向のイオン伝導性の向上には至らなかった。
|
今後の研究の推進方策 |
一次元イオン伝導パスを形成した高分子フィルムでは、パスを均一に並べることが困難であったため、今後は三次元的にパスが連結した逆カラムナー構造や逆キュービック構造の構築を目指す。すでに、棒状の双性イオン分子とイオン液体およびビニル高分子の3成分複合体において、逆カラムナー液晶構造を形成した伸縮性高分子フィルムが得られ、イオン伝導性が配向に依存しないことを確認している。また、三次元伝導フィルムは、一次元イオン伝導性フィルムよりも高速変形することを見出している。液晶ネットワーク構造に組み込むイオン液体の種類、高分子フィルムの厚みがアクチュエータの変形および出力に及ぼす効果を実験により検証し、液晶分子集合体の構造と電気力学変換効率の相関を明らかにする。
|