研究課題/領域番号 |
21H02028
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
定金 正洋 広島大学, 先進理工系科学研究科(工), 教授 (10342792)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ポリオキソメタレート / Preyssler / リンタングステート |
研究実績の概要 |
Preyssler型リンタングステート(Phosphotungstate: PTA) ([P5W30O110Mn+](15-n)-)という分子内に空洞を持ちその中に他の金属を内包することが可能なアニオン性酸化物クラスターに関して、以下の3つの研究を計画し2021年度に研究を始めました。(1) 分子空洞内のカチオンの移動の理解と、空洞内カチオンを自在に変えた分子の合成法の開発、(2) 分子骨格中のWを他の金属に変えた新規物質の合成法の開発、(3) 高収率合成法の開発。 2021年度末までに以下の成果を得ています。(1)に関しては、これまでに報告のないSr(2+)やBa(2+)カチオンを分子内に内包した新しい化合物の合成に成功しました。(2)に関しては、分子骨格中のタングステンをモリブデンに置換した新しい化合物の合成と構造解析に成功しました。(3)に関しては、単離収率を30%から45%程度にまで上げる事に成功しました。 当初の計画に加えて、新しい項目(4)として合成した化合物がコロナウイルスの電子顕微鏡観察用の染色剤として使える事を見出しました。 2022年度は更に以下の成果が得られました。(1)に関して、空洞内にNa+カチオンを1つだけ導入した化合物は中性条件ではNa+カチオンは中心に存在していますが、この化合物を酸性にする(対カチオンをプロトンにする、または、水に溶解後、酸を加える)ことで、中心にいたNa+カチオンが分子の中心からずれて移動する事また、酸性条件から中性条件に戻すと元の中心位置に戻ることを示唆するデータが得られました。(2)に関してはSCI国際共著論文を発表しました。(4)に関しては、ウイルス染色剤としてPreyssler型リンタングステートが有効であるというSCI論文を発表しました。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
学術的に重要な目標の1つである「分子空洞内のカチオンの移動の理解」が期待できる、空洞内に導入したNa+カチオンの位置を酸‐塩基反応で可逆に変える事が出来そうであるというデータが出始めている。また、2022年度にSCI論文を2報発表できている。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度までに得られた結果と知見を基に2023年度は以下の通り研究を進めます。 (1)に関しては、酸-塩基反応によりNa+カチオンが空洞内部で移動している様子を定性的かつ定量的に分析します。また、他の内包カチオンを酸-塩基反応で移動させることができるかを定性的かつ定量的に分析します。(2)に関しては、欠損型Preyssler型リンタンステートに他の金属を組み込む方法を検討します。(3)に関しては、合成条件と単離条件を更に最適化することによりさらなる収率の向上を目指し、合成方法に関する特許を申請します。また、反応中間体を分析し生成機構の解明に取り組みます。(4)に関しては、他のウイルスの観察に応用できるかを検討します。
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