研究課題/領域番号 |
21H02036
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
雨澤 浩史 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (90263136)
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研究分担者 |
中村 崇司 東北大学, 多元物質科学研究所, 准教授 (20643232)
藤崎 貴也 東北大学, 多元物質科学研究所, 特任研究員 (30846564)
木村 勇太 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (60774081)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 全固体電気化学デバイス / 化学ポテンシャル / オペランド計測 / 位置分解 / 時間分解 |
研究実績の概要 |
本研究では,固体イオン伝導体を電解質に用いる全固体電気化学デバイスを高性能化・高耐久性化するために,その中でイオン輸送の駆動力となり,また材料の化学安定性を決定する主要因ともなる「可動化学種の化学ポテンシャルの位置・時間分布」を把握することを目的とする。「可動化学種の化学ポテンシャルの位置・時間分布」を実験的に評価する手法はこれまでに確立されていない。そこで本研究では,申請者によって独自に提案・開発されたポテンシャルプローブ技術とオペランド計測技術を併用することで,全固体電気化学デバイスにおける化学ポテンシャル分布を時分解マルチスケールで実験的に明らかにする。 二年目である今年度は,前年度に確立された「オペランド放射光X線吸収微細構造(XAFS)測定による化学ポテンシャル分布の実験的評価手法」を,固体酸化物形燃料電池(SOFC)に適用した。モデル系として,電解質にイットリア安定化ジルコニア,電極に多孔質Ptを用い,電解質中には酸素化学ポテンシャルを検知するプローブイオンを少量添加した。このモデル系を用いることで,作動下のSOFC電解質における酸素化学ポテンシャル分布を実験的に評価した。前年度までは定常状態での評価が主であったが,今年度は手法の高速化(高時間分解能化)を図ることで,作動条件を変化させた際の分布の経時変化の評価にも成功した。また,電解質における酸化物イオンと電子の両極性拡散を仮定し,SOFC電解質における酸素化学ポテンシャル分布およびその変化を数値シミュレーションした。シミュレーションと実験で結果を比較したところ,両者は定量的に良い一致を見た。これは,全固体電気化学デバイスの電解質におけるわずかな電子伝導が,電解質における可動化学種の化学ポテンシャル分布・変化に大きな影響を及ぼすことを明確に示した初めての実験結果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,固体イオン伝導体を電解質に用いる全固体電気化学デバイスにおいて,イオン輸送の駆動力であり,また材料の化学安定性を決定する主要因でもある「可動化学種の化学ポテンシャル」に着目し,その位置・時間分布を実験的に評価することを目的としている。二年目である本年度は,前年度,申請者によって独自に開発された「可動化学種の化学ポテンシャルの位置・時間分布」を実測する手法を,実際の全固体電気化学デバイスに適用した。全固体電気化学デバイスの代表例として,固体酸化物形燃料電池(SOFC)を取り上げ,通電状態にあるイットリア安定化ジルコニア(YSZ)電解質における酸素の化学ポテンシャル分布を評価した。化学ポテンシャル分布の評価にはオペランド放射光X線吸収微細構造(XAFS)測定を用いたが,X線吸収量の計測手法を工夫し,また,照射位置スキャンを高速化することで,高時間分解での化学ポテンシャル分布評価を可能とした。これにより,SOFC電解質における酸素の化学ポテンシャル分布の経時変化を実測することに初めて成功した。また,電解質における酸化物イオンと電子(電子正孔)の両極性拡散を仮定した数値シミュレーションも行い,実測された化学ポテンシャル分布・変化を定量的に解釈することにも成功した。以上の通り,本研究は当初の計画に対し,概ね順調に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までに,全固体電気化学デバイスにおける「可動化学種の化学ポテンシャル」の位置および時間分布を実験的に評価する手法を確立し,これを,全固体電気化学デバイスの代表例である固体酸化物形燃料電池(SOFC)における酸素の化学ポテンシャル分布評価に適用することに成功した。また,イオンと電子の両極性拡散を仮定した,化学ポテンシャル分布の数値シミュレーションにも成功した。これらの実験的・数値解析的手法は,原理的には,SOFCに限らず,他の全固体電気化学デバイスにも適用可能である。これらを踏まえ,最終年である次年度には,本研究で確立された手法を,全固体リチウムイオン電池(ASSLIB)など,SOFC以外の全固体電気化学デバイスにも適用する。多様なデバイス,可動化学種に対して化学ポテンシャルの実測を行うことで,全固体電気化学デバイスにおける可動化学種の化学ポテンシャル分布を引き起こす原理・要因の系統的な理解へと繋げる。
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