本研究では、リチウムイオン電池の次世代電極(高電位正極・高容量負極)で問題となっている電解液の不要は酸化・還元分解を抑制する熱力学的新戦略を確立することを目的とした。具体的には、電極電位の自在制御が可能な電解液設計指針を確立するとともに、電極電位に着目した電解液設計により上記次世代電極の電位を電解液の電位窓内におさめることで、電解液の酸化・還元分解を抑制する。 今年度は、前年度に見いだされたイオン液体中における電極電位のアップシフト現象に着目し、さまざまなカチオンからなるイオン液体を用いて電極電位と負極性能の相関性を調べた。その結果、電極電位はカチオン種にかかわらずほぼ同一の値を示し、リチウムイオン化学ポテンシャルは主としてアニオン種によって決定されていることが分かった。一方、イオン液体に溶解するリチウム塩の濃度を上げることで、電極電位の更なるアップシフトが可能になるとともに、負極の充放電効率が上昇する傾向が認められた。 一方、高電位正極の充放電可逆性向上を目指し、電極電位のダウンシフトを可能にする電解液設計について検討した。電解液にさまざまな成分を添加することで、高エントロピー化した結果、電極電位が変動することを見いだした。これは、これまで検討してきたエンタルピー項に加えてエントロピー項の制御によっても、電極電位のシフトが可能であることを示している。しかし、エントロピー項による電極電位シフトへの影響はエンタルピー項と比較すると微小であった。 本研究により、電極電位の自在制御に向けた電解液設計において複数の重要因子が見いだされた。電極電位の自在制御は、これまで行われてきた速度論的戦略にかわる新たな熱力学的戦略であり、次世代二次電池の開発に向けた重要な学術的基盤となる。
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