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2021 年度 実績報告書

正準分子軌道解析に基づくタンパク質性能改変の研究

研究課題

研究課題/領域番号 21H02056
研究機関東京大学

研究代表者

佐藤 文俊  東京大学, 生産技術研究所, 教授 (00235392)

研究期間 (年度) 2021-04-01 – 2024-03-31
キーワードタンパク質 / 正準分子軌道計算 / 密度汎関数法
研究実績の概要

本研究の目的は、タンパク質の分子軌道を制御する機構を明らかにし、これに基づきタンパク質の化学的性質を改変する基盤技術を構築することである。我々は含金属タンパク質を対象とした正準分子軌道計算を達成できる量子化学計算プログラムProteinDFならびにQCLO法に基づく大規模分子自動計算プログラムQCLObotを開発している。タンパク質をまるごと量子化学的に取り扱うことのできるProteinDFは、局所基底関数としてGauss型基底関数展開を利用することで原子1つ1つが系全体の電子状態に与える影響を議論することができる。一方QCLObotは、複雑なヘテロ分子を含むタンパク質でも量子化学計算の収束解に近い高精度な初期値を作成するプログラムである。
本年度は、1. タンパク質分子軌道の広がりを客観的に評価する方法と、2. 相互作用エネルギー解析の手法を開発した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

1. タンパク質の分子軌道の広がりを評価する上で分子軌道の広がりを測定するものさしが必要であった。タンパク質分子軌道は数多くの原子上に点在し、逆に収縮した分子軌道は少ない原子上に局在化するものと考えた。そこで、PipekとMezeyによる局在化軌道を求める計算式を応用し、原子上の電子密度が分散する様をあらわすg値を定めた。その上で、いくつかの占有および空軌道の等値面が作成する波動関数の体積とg値との関係性を具体的なタンパク質で評価した結果、これらの間に相関があることがわかり、分子軌道の広がりを客観的に数値として評価することができるようになった。実際にコロナウィルスタンパク質で分子軌道を観察すると空軌道の方が占有軌道よりも広がる傾向にあったが、全ての分子軌道のg値を求めた結果、空軌道が広がる傾向がg値を評価することにより明確に確認することができた。
2. タンパク質の化学反応性を観察する上で、どのアミノ酸残基がエネルギー的に安定・不安定に寄与しているかをあらわす相互作用エネルギー解析は、実験で確認することは難しく、シミュレーションに期待される要素の一つである。分子軌道計算で一般的に用いられる相互作用エネルギー計算は、理論的に厳密であるが単体と複合体のエネルギー計算が必要であり、計算コストの高いタンパク質では現実的ではなかった。本研究で、エネルギー密度解析を利用することによって、1回の分子軌道計算で任意の領域間の相互作用エネルギーを求めることが可能になった。エネルギーを基底関数ごとに細分化して求めることができるため、アミノ酸残基ごとだけでなく、主鎖・側鎖に分けて解析することも可能である。エネルギーは1電子項、クーロン項、交換・相関項に分けて解析することも可能であり、密度汎関数法における交換相関項の解析はProteinDFがグリッドフリー法を採用したことにより実現した。

今後の研究の推進方策

作成した分子軌道の広がり評価法ならびにエネルギー密度解析法を具体的なタンパク質正準分子軌道計算に適用して分子軌道の解析に役立てていく予定である。特に活性中心を持つタンパク質の正準分子軌道計算を優先的に行い、活性中心の寄与の大きい分子軌道の変化を追跡していく。また本年度に開発した解析手法はマニュアル等を整備したのち、随時インターネット上で公開予定である。
具体的な計算事例としてタンパク質の正準分子軌道計算をすすめていくが、依然として計算コストが高い。ProteinDFとQCLObotの計算効率を向上させるため、ProteinDFの最適化・高速化および並列化と、QCLObotの大規模分子対応を並行して作業を行う。バージョンアップしたProteinDFおよびQCLObotはGPL v3ライセンスのもとオープンソースとしてインターネット上で公開する。

  • 研究成果

    (8件)

すべて 2021

すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)

  • [雑誌論文] Multiple mutations in RNA polymerase β-subunit gene (<i>rpoB</i>) in <i>Streptomyces incarnatus</i> NRRL8089 enhance production of antiviral antibiotic sinefungin: modeling rif cluster region by density functional theory2021

    • 著者名/発表者名
      Ogawa Saori、Shimidzu Hitomi、Fukuda Koji、Tsunekawa Naoki、Hirano Toshiyuki、Sato Fumitoshi、Yura Kei、Hasunuma Tomohisa、Ochi Kozo、Yamamoto Michio、Sakamoto Wataru、Hashimoto Kentaro、Ogata Hiroyuki、Kanao Tadayoshi、Nemoto Michiko、Inagaki Kenji、Tamura Takashi
    • 雑誌名

      Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry

      巻: 85 ページ: 1275~1282

    • DOI

      10.1093/bbb/zbab011

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Interaction energy analysis based on canonical Kohn-Sham molecular orbitals calculation of protein2021

    • 著者名/発表者名
      Hirano Toshiyuki、Sato Fumitoshi
    • 雑誌名

      AIP Conference Proceedings

      巻: 2343 ページ: 020007:1~4

    • DOI

      10.1063/5.0047812

    • 査読あり
  • [雑誌論文] 正準分子軌道計算による光活動性黄色タンパク質の電子構造解析2021

    • 著者名/発表者名
      前田 大陸、平野 敏行、佐藤 文俊
    • 雑誌名

      生産研究

      巻: 73 ページ: 157~163

    • DOI

      10.11188/seisankenkyu.73.157

    • オープンアクセス
  • [学会発表] Theoretical study of the receptor-binding domain of spike protein of SARS-CoV-2 by canonical molecular orbital calculation2021

    • 著者名/発表者名
      Hirano Toshiyuki, Sato Fumitoshi
    • 学会等名
      16th International Conference of Computational Methods in Sciences and Engineering (ICCMSE2021)
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Orchestration software for canonical Kohn-Sham molecular orbital calculation of proteins: QCLObot2021

    • 著者名/発表者名
      Hirano Toshiyuki, Sato Fumitoshi
    • 学会等名
      Pacifichem 2021
    • 国際学会
  • [学会発表] 新型コロナウイルスRNA結合ドメインの電子状態2021

    • 著者名/発表者名
      平野敏行, 坂口優羽, 佐藤文俊
    • 学会等名
      第15回分子科学討論会
  • [学会発表] 正準分子軌道法によるPETase活性中心の電子状態についての研究2021

    • 著者名/発表者名
      王天宇, 平野敏行, 佐藤文俊
    • 学会等名
      第15回分子科学討論会
  • [学会発表] 正準分子軌道計算によるインターフェロンα2の電子状態解析2021

    • 著者名/発表者名
      中岡亮太, 平野敏行, 佐藤文俊
    • 学会等名
      第15回分子科学討論会

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公開日: 2023-12-25  

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