本研究の目的は、タンパク質の分子軌道を制御する機構を明らかにし、これに基づきタンパク質の化学的性質を改変する基盤技術を構築することである。 我々は 含金属タンパク質を対象とした正準分子軌道計算を達成できる量子化学計算プログラムProteinDFならびにQCLO法に基づく大規模分子自動計算プログラムQCLObot を開発している。タンパク質をまるごと量子化学的に取り扱うことのできるProteinDFは、局所基底関数としてGauss型基底関数展開を利用することで原子1つ1つが系全体の電子状態に与える影響を議論することができる。一方QCLObotは、複雑なヘテロ分子を含むタンパク質でも量子化学計算の収束解に近い高精度な初期値を作成するプログラムである。これまでに達成してきたタンパク質の正準分子軌道計算による結果を観察すると、その分子軌道が広範囲にわたって広がっているものと、広がらずに局在化しているものとがあることがわかってきた。本年度は引き続き大規模正準分子軌道計算から得られた電子構造の効果的な解析方法の開発を行なった。 エネルギー密度解析法は正準分子軌道計算で得られたエネルギー分布を基底関数(原子軌道)ごとに可視化することができる。このエネルギー密度分布は実対称行列であるため、主成分解析を行うことができる。いくつかの低分子、ペプチドやタンパク質のエネルギー密度分布を求めた結果、それらから得られた固有値のほとんどは負であった。その固有値の分布は絶対値の大きさによっていくつかのグループに分類できた。固有値の分布と固有ベクトルを構成する基底関数の種類から、固有ベクトルと固有値はそれぞれ原子間結合(または相互作用)とその結合エネルギーに類する重要度をあらわしていると考えられる。タンパク質内部の広範囲にわたるペプチド結合から弱い水素結合まで特徴的な電子構造を観察することができた。
|