2023年度は、RNA塩基対の解離・再形成が蛍光パルスとして1分子観測される系の構築に取り組んだ。具体的には、蛍光分子としてATTО 655、その消光剤として、光誘起電子移動によりグアニンより強くATTО 655の一重項励起状態を消光するグアニン誘導体であるデアザグアニンを用いた。RNAが塩基対を形成した際、蛍光分子ATTО 655が、デアザグアニンの近傍に配置されるよう両者を導入した修飾RNAを設計した。RNA塩基対が解離し、構造変化が起きるとデアザグアニンによるATTО 655の一重項励起状態の消光が解かれ、ATTО 655は発光する。RNA塩基対が再形成されると、再びデアザグアニンによりATTО 655の一重項励起状態が消光され、発光が観測されなくなる。これにより、RNA塩基対が解離し、再形成されるまでの時間を蛍光パルスの持続時間として観測できる系を構築した。1つ1つの蛍光パルスはシングルフォトンカウンティングをベースに、観測されるフォトンとフォトンの間の時間の長さにより識別した。安定なRNA構造ほど、パルス発生頻度が低くなる現象の観測に成功した。1つ1つの分子より情報の得られる1分子蛍光観察では、膨大な量のデータが得られる。データの解析手法を、Pythоnを用いて開発した。これに伴い、例として10分子より得られた10秒の持続時間を有するblinkingデータを、クリック1つで1分以内に解析が可能となり、解析時間を二桁以上短縮することに成功した。
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