研究課題/領域番号 |
21H02062
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
三好 大輔 甲南大学, フロンティアサイエンス学部, 教授 (50388758)
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研究分担者 |
川内 敬子 甲南大学, フロンティアサイエンス学部, 准教授 (40434138)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 液液相分離 / 四重らせん構造 / 核酸 / ドロップレット / ペプチド / RNA |
研究実績の概要 |
細胞内の相分離が細胞学研究において注目を集めている。様々な生体分子が相分離により動的に局在と離散を繰り返し、多様な生体反応が制御されている。相分離の構成成分や役割といった生物学的知見が急速に蓄積されつつある。相分離の重要な分子物性は、外部刺激に応答するドロップレット形成の可逆性である。これは、タンパク質の線維化や凝集の不可逆性とは対照的である。相分離の環境応答性と構造可逆性は、核酸の環境応答性と、それに伴うタンパク質との相互作用ネットワークの変化によってもたらされる可能性がある。 そこで本研究では、「どのような核酸構造が分子環境や化学修飾に応答して、相分離に可逆的な形成と解離をもたらすことが可能なのか?」という点について検討するために、①相分離の最小モデルシステムの構築、②相分離の必須因子の解明、③相分離の制御技術の構築を試みている。 研究初年の2021年度には、当初の計画通り、細胞内外でのモデルシステムの構築を進めた。数十種類のRNA鎖と数十種類のRNA結合タンパク質の結合ドメイン由来のペプチドを用いて相分離能を網羅的に評価した。その結果、四重らせん構造を形成するRNA鎖と四重らせん構造選択的結合能をもつことが知られているRGGドメイン由来のペプチドの組み合わせが相分離を惹起することが明らかとなった。興味深いことに、②相分離の必須因子として、四重らせん構造が相分離の惹起に必須であることも明らかとなった。一方、細胞内相分離の観察に必要となる四重らせん抗体の入手がコロナ禍のため困難であり、細胞内モデルシステムの構築は2年目以降の課題として残ることとなった。相分離の惹起に四重らせん構造が必須であることがわかったことから、2年目以降に検討する予定であった、③相分離の制御技術についても、その合理的構築指針が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していた目的である、①相分離最小モデルシステムの構築、②分子環境と化学修飾に依存した核酸の構造―相分離能の相関の解明と相分離の必須因子の同定、③相分離必須因子や核酸構造結合化合物を用いた相分離制御技術の構築において、所定の成果が得られている。 ①相分離最小モデルシステムについては、2年目に当初の計画通りに達成できるめどが得られた。 ②分子環境と化学修飾に依存した核酸の構造―相分離能の相関の解明と相分離の必須因子の同定については、化学修飾に関して核酸構造に及ぼす効果の定量化に成功すると同時に、核酸構造の重要性を解明でいた点は、当初の計画以上に進捗しているといえる。一方、細胞内の相分離の観察・モデルシステムに関しては、必要となる抗体の入手などがコロナ禍で滞ったこともあり、当初の予定よりも研究の開始が遅れている。2年目以降には、この点に関しても巻き返しを図りたい。 ③相分離の制御技術についても当初の計画通りに、2年目以降に検討を開始する予定である。 以上のように、研究改革を上回る成果があったが、研究の開始が遅れている点もある。このような点を鑑みて、全体としては、おおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究改革通りに、三点の研究目標を達成することに向けて検討を継続する。 ①相分離最小モデルシステムの構築については、試験管内モデルシステムの構築がほぼ完了していることから、細胞内のモデルシステムの構築について注力する。具体的には、四重らせん構造を形成する配列を数十か所含むリボソーマルDNAが数百コピー、さらにはそこから転写されたリボソーマルRNAを含む、核小体について、四重らせん構造の挙動を観測する。 ②分子環境と化学修飾に依存した核酸の構造―相分離能の相関の解明と相分離の必須因子の同定については、分子環境と化学修飾について系統的に検討し、四重らせん構造の鎖配向性や構造安定性と相分離能の相関について検討する。 ③相分離必須因子や核酸構造結合化合物を用いた相分離制御技術の構築については、四重らせん構造に選択的に結合する低分子化合物や、核酸鎖を用いて、合目的的に相分離を抑制・促進できる技術の開発を目指す。
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