研究実績の概要 |
前年度に触媒的環化反応による生物活性分子の合成(分子合成)を実現したので、本年度では触媒的脱保護による生物活性分子の放出(分子放出)やがん組織への生物活性分子の触媒的複合化(分子複合化)も検討した。すなわち、金(III)触媒またはパラジウム(II)触媒を用いて、アセチレンを含む保護基に対する触媒的環化反応をトリガーとした、ドキソルビシンやエンドキシフェン抗がん剤の放出を実現し、抗腫瘍活性を発現させることができた。 一方、細胞表面リジン残基へのプロパルギルエステルによる金(III)触媒アミド化反応を用いて、様々なペプチドをがん細胞に選択的に導入することができた。接着阻害分子であるRGD誘導体をがん細胞に導入するとともに、がん細胞に導入することによって顕著な抗がん活性を示す分子を見出した。 さらに、これらの金属を含む人工金属酵素への「糖鎖パターン認識」の付加を行なった。本課題ではHeLa(ヒト子宮頸がん)、A549細胞(ヒト肺がん)、およびSW620(ヒト大腸がん)を対象のがんに設定した。予備的な成果から、HeLaにはalpha(2,3)シアリル化糖鎖とalpha (2,6)シアリル化糖鎖、A549はalpha (2,3)シアリル化糖鎖とグルコサミニル糖鎖、SW620には alpha (2,3)シアリル化糖鎖が選択的に認識することが分かっていたので、人工金属酵素の表面に対してこれらの糖鎖を「理研クリック反応」により導入した。このように「糖鎖パターン認識」を付与した人工金属酵素は、標的の細胞を選択的に認識した。
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