研究課題/領域番号 |
21H02067
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研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
塚原 俊文 北陸先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 教授 (60207339)
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研究分担者 |
竹中 瑞樹 京都大学, 理学研究科, 准教授 (10796163)
青木 吉嗣 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 遺伝子疾患治療研究部, 部長 (80534172)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 人為的RNA編集 / 脱アミン化 / アミノ基転移 / ADAR1 / PPRタンパク質 / ツノゴケ / DYWドメイン / MS2システム |
研究実績の概要 |
本研究では、遺伝子の点変異を原因とする疾患に対する治療法として、発現している変異したRNAの変異を人工酵素複合体の導入によってCの脱アミノ化あるいはUへのアミノ基転移による塩基置換によって変異を修復し、疾患を治療する方法の確立を目的としている。劣性遺伝形式の疾患で対立遺伝子の片方が正常であれば疾患は発症しないことから、RNAの修復効率50%以上の実現を目指して研究を行っている。 令和3年度はまず、植物由来のRNA編集システムの利用を検討した。植物ではPPRタンパク質のC末端に存在するDYWドメインがCの脱アミノ化を触媒することが判明している。我々はU⇒C RNA編集が顕著に観察されるツノゴケのPPRタンパク質遺伝子からDYWドメインとDYWに相同性を有する2つのドメイン(GRPおよびDRH)遺伝子断片を単離し、PPR56とその標的遺伝子nad4を利用した大腸菌アッセイ系でRNA編集活性を調べた。残念ながらU⇒C置換活性は確認出来ていないが、ツノゴケ由来のDYWはシロイヌナズナ由来に比べC⇒U変換活性が高いことが明らかとなった。そこで、これまでにADAR1やAPOBEC1を用いて人工RNA編集酵素複合体の創成に成功したMS2システムを介してguide RNAと結合させた。この植物由来の人工RNA編集酵素複合体遺伝子をHEK293細胞に導入したところ、非常に効率良いC⇒U変換が認められ、ほとんどの変異RNAが修復されることが判明した。 さらに従来のguide RNAを改良し、標的RNAに相補的な配列の両側に1つのMS2 loop RNAを付加することによってAPOBEC1を利用した人工RNA編集酵素でもC⇒U RNA編集効率を50%以上に向上させることに成功した。これらの結果によって、人為的なRNA編集による点変異RNAの修復疾患治療法は実用化レベルに達したと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々はこれまでにADAR1およびAPOBEC1の活性部位と標的RNAに相補的なguide RNAをMS2システムを介して結合させることで人工RNA編集酵素複合体を創成し、塩基配列特異的な細胞内RNAのA⇒I(G)およびC⇒U変換を誘導に成功していたが、そのRNA編集効率はさほど高くなかった。Guide RNA配列の両端にそれぞれ1つのMS2 loop RNAを付加した改良型guide RNAによってA⇒I(G)およびC⇒Uの細胞内変換効率は共に50%を超えるレベルに達し、人為的なRNA編集による疾患治療の実現が可能となった。また、植物ではU⇒C RNA編集が観られることに着目し、特にU⇒C RNA編集が顕著なツノゴケのRNA編集機構の研究に着手した。植物ではPPRタンパク質のC末端に存在するDYWドメインがC⇒U RNA編集を触媒しているが、ツノゴケにはDYWドメインに相同性を有するがC末端がDYWではなく、GRPあるいはDRHである遺伝子が多く存在していた。これまでのところ、これら異性体にU⇒C RNA編集活性は確認出来ていないが、ツノゴケ由来のDYWは非常に高いC⇒U RNA編集活性を有することが判明したため、ツノゴケDYWを用いて人工RNA編集複合体を創成した。この人工RNA編集酵素複合体遺伝子をHEK293細胞に導入したところ、非常に効率良いC⇒U RNA編集が認められ、ほとんどの変異RNAが修復された。今後、GRPあるいはDRHドメインの機能解析を進めることでU⇒C RNA辺雄活性に迫れるものと期待している。 我々はMDPI-Cells、BBRC等、竹中らはNature Catalysis等、青木らはNucleic Acid Therapeutics等にそれぞれ研究成果を発表しており、また我々と竹中の共著論文も準備中であり、本研究は順調に進捗していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、C⇒UおよびU⇒Cの人為的RNA編集を触媒する人工の酵素-RNA複合体を創成し、さらに当該酵素複合体の遺伝子を細胞および疾患モデルマウスに導入し、細胞内および生体内での変異RNAの遺伝コード修復を実現させることを目的としている。 今年度は人為的なC⇒U RNA編集の効率を実用化レベルに引き上げるための研究と、T>C変異と原因とする疾患モデルであるmacular mouseを対象とした人為的C⇒U RNA編集によるRNA修復研究を実施する。まず、macular mouse由来の細胞を対象にAPOBEC1由来およびツノゴケPPR-DYW由来の人工RNA編集酵素複合体遺伝子を導入してP-type ATPase mRNAの修復の有無と修復効率を検証し、有効性が確認出来たらマウス個体を対象とした遺伝子治療研究を実施する。ベクターには組織特異的な遺伝子導入が可能なアデノ随伴ウイルスベクターを用いる。 また、U⇒C RNA編集を触媒する人工酵素複合体の創成にも挑戦する。我々はこれまでに、U⇒C RNA編集が多く観られるツノゴケからDYWドメインと高い相同性を持つがC末端がDYWではない新規のPPRタンパク質2種類の遺伝子のクローニングに成功した。これらのPPRタンパク質がU⇒C反応と関わっている可能性が高いと考えられるため、当該PPRタンパク質の機能解析を行う。PPR56とその標的RNAであるnad4を利用した大腸菌アッセイ系にアミノ基供与体を添加することでアミノ基転移反応の可否を確認する。また、アミノ転移反応を触媒する人工酵素の開発も試みる。脱アミノ化酵素の活性中心の近傍にアミノ基の供与体を提示することで逆反応のアミノ転移反応が起こる可能性があるため、APOBECの立体構造を参考に、分子力場計算等で酵素活性をコントロールしうるアミノ酸置換位置とアミノ酸残基の推定を行う
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