研究課題/領域番号 |
21H02102
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
栗原 達夫 京都大学, 化学研究所, 教授 (70243087)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 生体膜 / リン脂質 / リゾホスファチジン酸アシル基転移酵素 |
研究実績の概要 |
【リゾホスファチジン酸アシル基転移酵素 (LPAAT) の精製と機能解析】 リゾホスファチジン酸の sn-2 位にアシル鎖を導入する LPAAT は、細菌膜リン脂質アシル鎖の多様性創出において主要な役割を担っている。我々はこれまでの研究により、Escherichia coli が以前から知られていた LPAAT である PlsC に加えて、第二の LPAAT である YihG を有することを見出した。これらの詳細な比較解析を目指して、両酵素の精製を試みた。LPAAT は膜タンパク質であり、活性を保った状態で可溶化することは一般に困難であるが、界面活性剤 6-cyclohexyl-1-hexyl-β-D-maltoside を用いることにより、活性を保った状態で PlsC を精製することに成功した。精製 PlsC を用いた解析により、本酵素がパルミトレオイル CoA などの不飽和アシル CoA を良好なアシル基供与体とすることが明らかとなった。一方、アシル基受容体としては、ミリストイル基やパルミトイル基などの飽和アシル基をもつリゾホスファチジン酸を良好な基質とすることが見出された。 【LPAAT 欠損株の表現型解析】 種々の LPAAT の生理機能解明を目的として、これらの遺伝子破壊株の表現型解析やオミックス解析を進めている。E. coli の YihG については、その欠損が運動性の向上を引き起こすことを見出している。YihG 遺伝子欠損株のトランスクリプトーム解析とプロテオーム解析を行った結果、べん毛関連遺伝子など運動性に関わる遺伝子の発現量増加やタンパク質の増加が見られた。また、酸耐性に関わる遺伝子の発現量低下なども観察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
活性を保った状態での精製が困難とされてきた PlsC の精製に成功し、基質特異性などの酵素学的特性を明らかにしたほか、YihG の生理機能発現機構解明の基盤となる野生株と YihG 欠損株の比較オミックス解析データを取得するなど、大きな進展があった。一方、YihG の精製・機能解析や、種々の LPAAT の欠損により発現変動するタンパク質の機能解析やそれらの発現変動のメカニズム解析に時間を要していることから、「おおむね順調に進展している」と評価することが妥当と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
YihG など種々の LPAAT を、活性を保った状態で可溶化・精製し、精製標品を用いて詳細な酵素学的特性を明らかにする。また、立体構造予測と部位特異的変異導入などにより、基質特異性を決定づける構造を明らかにするとともに、基質特異性の人為的改変を試みる。一方、LPAAT や他のリン脂質生合成関連酵素の欠損・改変によってリン脂質組成が変化した株を作製し、リン脂質アシル鎖組成の改変が膜タンパク質等の発現量や機能に及ぼす影響を明らかにする。
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