研究課題/領域番号 |
21H02106
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
加藤 純一 広島大学, 統合生命科学研究科(先), 教授 (90231258)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ケモセンサー / 物質認識機構 / 走化性 |
研究実績の概要 |
Pseudomonas protegens CHA0の4つのアミノ酸走化性センサーCtaA、CtaB、CtaC、CtaDはそれぞれ19、4、2、7種類のアミノ酸を感知する。これらセンサーのリガンド結合ドメイン(LBD)は相同な構造を持つことから、認識できるアミノ酸の数にどの部位が関与するかを明らかにするのが本研究の目的である。構造解析済みのVibrio chorelaeのアミノ酸走化性センサーMlp37のLBDも含めたBlast解析を行ったところ、Mlp37のD172(アミノ基との結合に関与)に相当するアミノ酸残基はCtaAでは保存されているもののCtaB及びCtaCではA、CtaDではWであることが分かった。そこで、これらの部位に位置特異的変異を導入した。そしてPseudomonas aeruginosaのアミノ酸走化性欠損株で発現しアミノ酸認識パターンを調べた。まず、CtaAのD172をAlaに置換した変異体センサーはいずれのアミノ酸も感知できなくなり、D172がアミノ酸感知に重要であることが分かった。ついでCtaBのA172をAspに置換した変異体センサーを構築した。野生型のCtaBはAsn、Gln、Met、Serを認識するが、変異体CtaBはこれらアミノ酸を認識できなくなった。その一方、野生型では認識しなかったArgを認識できるようになった。現在、変異体CtaCのアミノ酸認識パターンについても測定している。また、他の部位でも位置特異的変異の導入を行っている。この実験結果を分子ドッキングモデルで解析すべく、ドッキングモデルのフリーソフトを利用したが、CtaA、CtaBのLBDの精密な予測構造が必要であることが分かった。そこで、京都大学化学研究所のスーパーコンピュータを利用する手配をし、現在解析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
いくつかトラブルに見舞われたが、いずれも解決しており、ほぼ計画通り研究は進行している。トラブルのひとつは位置特異的変異の導入である。標的のアミノ酸残基を置換できるように設計したプライマーを用いたPCRにより位置特異的変異を導入した。変異プラスミド構築後にDNAシーケンシングすることで配列の確認を行ったところ、対象の塩基以外にも変異が生じてしまっていることが分かった。種々検討を行った結果、耐熱性DNAポリメラーゼを代えることで問題を解決できることが分かり、現在では問題なく変異遺伝子の構築ができるようになっている。トラブルの2つ目は、分子ドッキングモデル解析である。当初、Phyre2などの簡易なソフトを用いて予測した構造を用いてドッキングモデル解析を行ったが、実験的に認識するアミノ酸がドッキングできなかったり、リガンド結合部位から大きく外れた位置にドッキングすると予測されたり、信頼性に欠ける結果が多々得られた。そこで、精密な構造予測を行うべく、AlphaFold及びRobettaを利用することにした。当初、九州大学のスーパーコンピュータを用いて解析を試みたが、これらモデリングソフトのドライバーが使用できないことが分かった。そこで、京都大学化学研究所のスーパーコンピュータに鞍替えして解析を行っている。位置特異的変異を導入した変異体センサーを用いた走化性試験はもし順調に進めるのならば、複数の変異体で行えるかもしれないと思っていたが、上記のトラブルに見舞われたため、2021年度は変異体CtaBの特性化にとどまった。それでも、A172のAspへの置換で本来認識できなかったArgが認識できるようになったとの結果は大きな収穫である。変異体CtaCの構築は終了しているので、この特性化も速やかに進める。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り研究を推進する。 CtaABCについては位置特異的変異を導入した変異体を作成し、それらのアミノ酸認識パターンを調べる。その一方、野生型LBDと変異体LBDの精密構造を予測するとともに、分子ドッキングモデルを用いて各種アミノ酸とのアフィニティを予測する。分子ドッキングモデルの結果と実験の結果を突き合わせ、アミノ酸認識の分子機構を考察していく。2022年度はP. protegens CtaABCに限定してこれら作業を行う。研究が順調以上に進んだ場合は、P. aeruginosaのPctABCへも拡張して解析を行う。
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