研究課題/領域番号 |
21H02115
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
山下 哲 金沢大学, 物質化学系, 准教授 (70361186)
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研究分担者 |
戸澤 譲 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (90363267)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 脂溶性有用物質 / メタボロン / X線結晶構造解析 / イソプレノイド / 天然ゴム / フラボノイド / ナノディスク |
研究実績の概要 |
植物が生産する有用な二次代謝産物は、小胞体膜上で酵素複合体メタボロンの形成により効率的に合成されることが明らかになってきた。他の宿主での代替生産系を構築する上でも、メタボロンの構造と機能を理解することが不可欠である。メタボロンの構成因子同士の相互作用は一般的に弱く、膜上で一過性に形成される複合体の単離も困難である。そのため、複合体の量論比、相互作用、ダイナミクスに関する知見は少ない 。本研究ではフラボノイドおよび天然ゴム生合成系を対象として、代謝酵素複合体の酵素学的解析、質量分析とX線結晶構造解析により、相互作用様式を解明する。さらに高速原子間力顕微鏡を用いて脂質膜上での複合体の動態を観察し、種々の溶液条件における複合体形成および解離のダイナミクスを明らかにすることを目的とする。 本年度の実績として、植物由来の天然ゴム合成酵素ホモログのX線結晶構造解析することに成功し、国際学術論文誌であるThe FEBS Journal(Impact factor:5.54)に論文が受理された(2022年2月8日付)。この成果はプレスリリースにより、ゴム報知新聞NEXTやゴム化学新聞他多数の記事として掲載された。さらに、天然ゴム生合成系について、触媒本体とパートナータンパク質をナノディスク膜上へ再構成することに成功し、パラゴムノキとグアユールという二つの天然ゴム生産植物由来の複合体について、酵素学・質量分析・相互作用解析により、触媒機能に必要な最小単位(コア構造)の複合体の量論比を初めて解明した。この成果はNature Publishing Groupが発行するScientific Reports(Impact factor:4.38)に受理された(2022年3月8日付)。フラボノイド系の結晶構造解析も進めており、カルコン合成酵素とカルコン異性化酵素類似タンパク質について、単独で高速原子間力顕微鏡の測定を行うことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、懸案であった植物由来の天然ゴム合成酵素ホモログのX線結晶構造解析することに成功し、国際学術論文誌に原著論文が受理された。また、研究協力者らと共同でプレスリリースにより社会にアピールできたため、今後の波及効果が期待できる。また、天然ゴム生合成に関与するタンパク質系について、研究分担者の貢献により、触媒本体とパートナータンパク質をナノディスク膜上へ再構成することに成功した。この成果は、研究分担者と共同で原著論文化されたのみならず、これまでに天然の膜系からゴム合成酵素複合体を単離しても、膜に存在する夾雑成分が多く、対象の酵素複合体を純粋化できないという問題を解決した点で画期的であり、他の植物有用物質代謝酵素複合体の解析にも応用することが期待できる。さらに、現代において最も重要な天然ゴム供給源であるパラゴムノキと、次世代のゴム資源として注目されているグアユールという二つの天然ゴム生産植物由来の複合体について、最小単位(コア構造)による活性発現機構を世界で初めて明らかにした。このコア構造の相互作用界面については、AIを用いた計算予測プログラムを有効に活用し、これまでに無い精度で1:1のヘテロダイマー型予測構造を得ることに成功した。さらに、相互作用界面に存在するアミノ酸側鎖を特異的な架橋試薬で処理し、試験管内でヘテロダイマー由来の架橋複合体を確認した。以上の酵素学・計算科学・相互作用解析により、触媒機能に必要なコア構造の量論比が初めて解明されたため、本研究計画の大きな目標の一つが達成されたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進方策として、フラボノイド生合成系の酵素群からなる複合体を中心に検討を進める。この実験計画については、フラボノイド生合成系の鍵酵素であるカルコン合成酵素と、その活性調節を担うカルコン異性化酵素類似タンパク質を代謝酵素複合体の最小単位(コア構造)とみなして、二つの因子の立体構造と活性調節機構の解明を目標に進めていく。次年度は、ダイズおよびヒメツリガネゴケという由来の酵素およびタンパク質群を扱う。これら2種の植物は、植物の陸上化および進化において大きく隔てられており、フラボノイド生合成の鍵酵素の活性調節に関与するタンパク質-タンパク質間相互作用については保存されているものの、その親和性は異なることが予想されている興味深い題材である。これらのフラボノイド代謝系のコア構造を構築すると予想されるタンパク質を計4種異種発現させ、精製と結晶化の検討を行う。初期の結晶が得られた場合は、結晶化条件の最適化とX線回折強度測定を行う。また、コア構造の共発現系により、複合体として発現・単離することを試み、複合体の結晶化を検討する。さらに、初年度において天然ゴム合成系の研究に活用したナノディスクに両者を導入する検討を行う。その結果として生じる2種のタンパク質とナノディスク複合体を分離・精製し、高速原子間力顕微鏡での測定を検討する。天然ゴム生合成系については、各因子の結晶化を目指して検討を進める。また、初年度において結晶構造解析を行った植物由来天然ゴム合成酵素ホモログや、酵素学解析を行った天然ゴム合成酵素複合体のナノディスクとの複合体を用い、高速原子間力顕微鏡での測定を検討する。
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