研究実績の概要 |
本年度はスフィンゴ脂質代謝酵素の阻害剤の効果を減弱させることで細胞を守る救済機構について、以下の成果を得た。 (1) Aureobasidin A (AbA)は、セラミドを複合スフィンゴ脂質 (酵母だとIPC)に変換する酵素 (IPC合成酵素)を阻害する薬剤で、強力な生育阻害が出芽酵母で誘導される。本研究では、エルゴステロール生合成の最終段階に関わる非必須遺伝子 (ERG2, ERG3, ERG4, ERG5, ERG6)の中で、ERG2, ERG5, ERG6のいずれかを欠損した変異株がAbA耐性を示すことを見出した。ERG6欠損株では、AbAのin vivoにおけるIPC合成に対する阻害効果が減弱していることがわかったが、この影響はIPC合成酵素の発現量、細胞内局在の変化に起因していないことが示された。さらにAbAの細胞内取り込み量がERG6欠損株で減少してなかった。このような表現型は、以前に我々がAbA耐性を付与する遺伝子として同定したPDR16過剰発現株でも観察されていた (FEMS Microbiol Lett (2018)364,fnx255)。そこでERG6欠損株においてPDR16の欠損の影響を調べた結果、ERG6欠損によるAbA耐性は、PDR16に依存することが明らかとなった。ERG6欠損株では、Pdr16の発現量が増大しており、この効果はPDR16のプロモーター活性に依存しないことがわかった。以上の結果より、エルゴステロールの生合成損傷下では、PDR16依存的に複合スフィンゴ脂質生合成阻害剤に対する救済機構が活性化されることが示された。 (2) 複合スフィンゴ脂質の基本骨格であるスフィンゴイド塩基の細胞外放出に関与する形質膜タンパク質Rsb1に、スフィンゴ脂質生合成阻害剤myriocinを放出する活性があることを新たに示唆した。
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