研究課題/領域番号 |
21H02120
|
研究機関 | 京都府立大学 |
研究代表者 |
織田 昌幸 京都府立大学, 生命環境科学研究科, 教授 (20318231)
|
研究分担者 |
関口 博史 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 回折・散乱推進室, 主幹研究員 (00401563)
沼本 修孝 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 准教授 (20378582)
神谷 成敏 兵庫県立大学, 情報科学研究科, 特任教授 (80420462)
宮ノ入 洋平 大阪大学, 蛋白質研究所, 准教授 (80547521)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 酵素 / PET分解 / 構造機能相関 |
研究実績の概要 |
放線菌Saccharomonospora viridis AHK190由来のクチナーゼ(Cut190)の分子内にジスルフィド結合を導入した変異体(Cut190**SS)で、PET分解に必要なガラス転移温度(約70℃)以上の耐熱性を有し、実際にPET分解も認められた結果を踏まえ、Cut190**SS、及びさらにアミノ酸置換した変異体を用いて、研究を進めた。Cut190では、Ca2+存在下で活性化する特徴をもつが、Cut190**SSで、70℃以上での活性測定を行った結果、Ca2+非存在下でも、部分的に活性が認められた。この実験結果を踏まえて、分子動力学計算(MD)を用いた構造分布の温度依存性を解析したところ、25℃付近では、結晶構造でも認められた「open構造」と「closed構造」が別々に観測されたのに対して、70℃付近では、両構造が1つに融合した分布となった。これらの結果は、各構造間のエネルギー障壁が、高温下では相対的に低くなり、Ca2+依存的な構造変化の寄与が小さくなったと考えられる。さらにCa2+存在下、非存在下での、溶液中での動的構造が如何に変化するかを明らかにすべく、ジスルフィド結合導入前のCut190**を用いて、サイズ排除クロマトグラフィー付きX線小角散乱(SEC-SAXS)実験を行った。その結果、Ca2+添加に伴い、慣性半径Rgで0.2-0.3Åの減少が認められた。特にジスルフィド結合導入前では、Ca2+添加に伴い、熱安定性も大きく上昇することから、Ca2+結合に伴い、Cut190**分子内結合が強まり、Rgが減少したものと考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Cut190のCa2+依存性について、高温下では、その寄与が減少することを実験的に示し、その要因として、常温下ではCa2+結合に伴い変化する各構造間のエネルギー差が、高温下では小さくなることを計算科学的に示した。これはタンパク質全般での金属イオン制御機構としても重要で、酵素のオンオフを温度依存的に制御できるとも言える。ただし、その構造間の変化は、既存手法で検出するには極めて小さいことが、今回のX線小角散乱法を用いた結果からも示唆された。ただし、このような微小な変化が、酵素に代表されるタンパク質の構造機能相関の解明には重要で、高分解能のX線結晶構造解析に加えて、革新的な構造解析手法の開発とともに、1分子レベルで時系列の解析を進める必要性を実感している。またPET分解の応用展開に向けては、フランスのグループがLeaf-branch compost cutinase(LCC)変異体を用いて進める結果に先行されていることは否めず、さらにCut190の高機能化や、反応条件、PET基質側の処理等を加えて、検討を進める必要がある。
|
今後の研究の推進方策 |
Cut190**SSにアミノ酸置換を加えた一連の結果で、PET分解活性が上がった変異体を見出しており、その変異体を中心に、X線結晶構造解析やNMR解析等を進め、PET分解の構造機能相関に関する基盤を解明して、論文発表する。高機能化変異体では、Ca2+結合に伴い構造変化する部位のアミノ酸置換に効果があったことから、「弱い」金属イオン結合(Cut190ではCa2+)による酵素の機能発現にも着目したい。仮説として、「弱い」金属イオン結合は、酵素内を比較的自由に動き、その動きに応じて、酵素の構造分布、すなわちCut190のX線結晶構造解析で認められた「open構造」や「closed構造」等の構造間を行き来することで(構造平衡の変化)、効率的な機能を生み出しているのではないか、その検証を、実験と計算の両面で進める予定である。応用面では、酵素の高機能化と同時に、高圧下や界面活性剤存在下等の反応条件の検討を進める。
|