研究課題/領域番号 |
21H02127
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
葛山 智久 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (30280952)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 核酸 / 生合成 / 放線菌 |
研究実績の概要 |
2022年度は、核酸系抗生物質、A-94964の生合成研究が主に進展したので以下に説明する。A-94964生合成(anb)遺伝子群のバイオインフォマティクス解析により、ユニークなⅠ型ポリケチド合成酵素(PKS)であるAnb6、Anb7、Anb8、Anb9、および未知のタンパク質Anb3が、A-94964の珍しいアシル側鎖を生合成している可能性を示した。各anb遺伝子の異種放線菌での共発現実験から、Anb6アシルキャリアプロテイン(ACP)に結合したポリエンの長さが異なる一連のアシル側鎖は、Anb6を含むこれらの珍しいタイプⅠPKSにより合成されることを示した。Anb7はエノイルレダクターゼ(ER)ドメイン、Anb8はケトシンセターゼ-アシルトランスフェラーゼ(KS-KS-AT)ドメイン、Anb9はケトレダクターゼ-脱水酵素(KR-DH)ドメインを持っていることが分かった。また、SDS-PAGEおよびサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)解析により、Anb6、Anb7、Anb8、Anb9がヘテロ複合体を形成していることを明らかにした。また、このヘテロ複合体を用いて、試験管内でA-94964のアシル側鎖を生合成させることにも成功した。 anb3破壊体の培養ブロスから親水性化合物(2)を単離した。2の構造は、1Hおよび13C NMR分析から、アシル側鎖と糖部分を欠いたA-94964であると決定した。Anb3の機能については、in vivoおよびin vitroの両実験により検討した。その結果、未知のタンパク質Anb3がN-アセチルトランスフェラーゼとして働き、A-94964生合成のアシル化反応に重要な役割を果たすことを明らかにした。In vitro実験の結果、Anb3は幅広い基質特異性を示すことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
A-94964の生合成研究については順調に進行中である。一方で、JBIR-68の生合成遺伝子の同定が難航しているため。
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今後の研究の推進方策 |
難航しているJBIR-68の生合成遺伝子の同定とその生合成酵素の機能解明を目指す。これまでに、JBIR-68の生産菌のゲノムシーケンスを完了し、バイオインフォマティクスを駆使してその生合成遺伝子候補の絞り込みを行なってきた。しかしながら、JBIR-68の構造が比較的単純であることから、生合成反応を予測するための情報が限定的であり、いわゆるアミノ酸配列の相同性に基づく生合成酵素の候補を絞り込むことが困難となっていることが原因で、本研究テーマの遂行は現在難航している。そこで、JBIR-68の誘導体であり、JBIR-68と類似の生合成機構で生合成されると予想できるシママイシンとJBIR-68の生産菌のゲノム配列を比較したり、それぞれの生産菌の粗抽出液を用いた酵素反応を比較しながら行うことで、JBIR-68とシママイシンの生合成酵素の手がかりを探る。JBIR-68とシママイシンの構造類似性を考慮すると、ゲラニル、オロチン酸(もしかするとその前駆体であるジヒドロオロチン酸)、ウリジンに安定同位体を含むものを、シママイシン生産菌、JBIR-68生産菌の培養液に添加して、それらの前駆体が予想通りにターゲット分子に組み込まれるのかを検証する。一方で、シママイシンとJBIR-68で生合成経路が異なるという予想外の展開もあるかもしれないため、シママイシンを酸化する活性がJBIR-68生産菌の細胞抽出液に検出されるのかを検討する。この酸化活性が検出できれば、この酵素の精製を進めることも検討する。さらには、一次代謝のジヒドロオロチン酸脱水素酵素が逆反応でJBIR-68をシママイシンに変換することも考えられるため、生産菌の粗抽出液の調製方法の検討を早急に開始し、JBIR-68とシママイシンの特異な生合成機構の解明を目指す。核酸系抗生物質、A-94964の特に特異な側鎖構造の生合成研究も加速する。
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