研究課題
膜脂質は細胞膜の主要成分であり、抗生物質や代謝疾患治療薬の標的であることからも、その機能の理解が求められている。ところが、タンパク質とは異なりゲノムに直接コードされていないため、遺伝学的アプローチのみで機能を理解することは難しい。本研究では脂質に作用して特徴的な表現型を示す生理活性化合物に着目し、それらの作用機序を解析することで、生体膜脂質の機能の多面性を明らかにする。本年度の研究実績は以下のとおりである。・海洋天然物セオネラミドを用いたケミカルバイオロジー:ステロールを標的とするセオネラミドを分裂酵母に処理すると細胞末端と分裂面にグルカンの異常蓄積が起こる。前年度までに本現象には複数の低分子量GTPaseが関与する可能性が示されており、本年度はそれらの活性調節因子の関与の可能性を解析した。すると低分子量GTPaseの活性化因子のいくつかはグルカンの異常蓄積部位に局在し、その遺伝子破壊はグルカンの異常蓄積の形態に影響を与えた。不活性化因子についてはグルカン異常蓄積部位からの排除傾向が認められた。これらの結果は、間接的ではあるが、細胞膜ステロールが細胞極性を制御する因子の一つである可能性を示唆する。・奇数鎖脂肪酸が示す抗真菌活性の分子メカニズム:奇数鎖脂肪酸は分裂酵母においてリピドームを撹乱することで特定のオルガネラの形態変化を誘導し、細胞増殖を抑制する。本年度は本現象と脂肪酸の不飽和度との関係を解析した。脂肪酸不飽和化酵素の発現量を制御して増殖を検討したところ、奇数鎖脂肪酸に対する感受性が上昇し、さらに偶数鎖脂肪酸に対する感受性も示した。また他の脂質代謝関連酵素についても変異導入により、同様の結果が得られた。これらの結果から、奇数鎖脂肪酸を用いて解析を進めてきたユニークな表現型は一般的な脂肪毒性であり、特定のオルガネラの形態変化が脂肪毒性の要因の一つであると示唆された。
令和5年度が最終年度であるため、記入しない。
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